2.十歳の覚醒儀式と消えた銀光
五年という歳月は、瞬く間に過ぎ去った。
そして今日――ついに迎えた。十歳の覚醒儀式の日だ。
領地中が祝祭のように沸き立っている。
自分の子どもが覚醒するからか、
それとも領主家の双子がついに儀式を受けるからか。
誰もが当然のように思っていた。
雪助は剣士になる。
そして俺は……ただの添え物。
教会の大扉がゆっくりと開く。
彩色ガラスを通した陽光が差し込み、
床はまるで金の粒を撒いたように輝いていた。
神官、教師、貴族、村人……
その視線はすべて雪助へ向けられている。
子どもたちが順番に儀式を受け、
ついに雪助の番が来た。
「雪助様、どうぞ前へ。」
神官が恭しく頭を下げる。
雪助は赤い絨毯を踏みしめて進む。
金髪が光を受けて輝き、まるで天に選ばれた子のようだった。
その後ろを歩く俺の足音は、
誰にも届かないほど小さい。
名前を呼ぶ者はいない。
視線を向ける者もいない。
俺は影のような存在。
それでも心は揺れなかった。
今日だけは――
兄と同じスタートラインに立てる、人生で最初で最後の瞬間だから。
神官が杖を掲げ、鐘の音が響く。
「雪助様、水晶に手をお置きください。」
雪助が手を伸ばした瞬間、
水晶は金色の光を爆ぜさせ、教会中を照らし出した。
「金色……!やはり剣士だ!」
「さすが領主家の正統なる血筋!」
拍手、歓声、称賛が渦を巻く。
その横で俺は静かに待っていた。
全員が落ち着いた頃、
神官はまるで思い出したように俺へ視線を向けた。
「……ああ、雪誠も……来なさい。」
まるで通りすがりの子どもに声をかけるような淡々とした口調。
俺は前へ進み、水晶に手を置く。
教会は静まり返った。
期待も、緊張も、何もない。
むしろ誰かが小声で言った。
「無職じゃなければいいけど……」
その瞬間――
水晶が光り始めた。
金でも、青でもない。
銀白色。
爆発も、揺れも、異変もない。
ただ静かに、純粋に、心を震わせる光。
だが、その光が広がった同時刻――
教会の扉が勢いよく開かれた。
「領主様、ご到着――!」
全員が一斉に振り返り、
跪き、頭を垂れ、歓声を上げる。
父が教会に入ると、
真っ先に雪助へ視線を向けた。
「雪助、何に覚醒した?」
雪助は胸を張り、誇らしげに答える。
「父上、私は――剣士に覚醒しました。」
再び大きな拍手が響く。
その間、俺は――
まだ水晶に手を置いたまま。
銀光は俺を包み続けている。
だが、誰も見ていない。
誰も尋ねない。
「雪誠、お前は何に覚醒した?」と。
神官でさえ父に気を取られ、
水晶の異変に気づいていなかった。
銀光は静かに消えていく。
まるで最初から存在しなかったかのように。
俺はそっと手を離した。
誰にも気づかれず、
誰にも記録されず、
誰にも興味を持たれず。
俺の覚醒は――
歓声と拍手の渦の中で、
完全にかき消された。




