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ドレスを脱いで荒野で国を創る  作者: 九葉(くずは)


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第7話 VS魔法軍団

「姉御! 大変です! クマ吉が国境付近で『ピカピカした集団』を見たそうで!」


オークの親方が、血相を変えて現場事務所に飛び込んできました。

私は図面から顔を上げ、眉をひそめました。


「ピカピカした集団? 新型の光る魔物ですか?」


「いえ、人間です! 旗を持って、大勢でこっちに向かってきてると!」


私はペンを置き、すぐに展望台へと向かいました。

村の周囲を囲む防壁の上。

そこから私が作った高倍率の望遠鏡(レンズはレオンハルト製)で、南の地平線を確認します。


砂煙を上げて進軍してくる騎馬隊。

その数、およそ三百。

掲げられている旗は、見間違いようもありません。

ソルヴァニア王国の紋章、双頭の鷲です。


そして、先頭を行く白馬には、見覚えのある金髪の男が乗っていました。


「……ジェラルド殿下」


私はため息をつきました。

元婚約者が、わざわざ軍を率いて何の用でしょうか。

彼の手には剣ではなく、魔導杖が握られています。

殺る気満々ですね。


(追放しただけでは飽き足らず、私が作ったこの楽園を破壊しに来たのですか?)


許せません。

この村の建物は、一本の釘、一枚の板に至るまで、私と仲間たちの汗と涙の結晶です。

それを、現場の苦労も知らない温室育ちの王子に、土足で踏み荒らさせるわけにはいきません。


私の背後に、黒い影がゆらりと浮かび上がりました。

寝起きで不機嫌な魔王、レオンハルトです。


「……スカーレット。あれは敵か?」


「ええ。招かれざる客ですね」


「なら、消すか。僕の安眠を妨げる害虫どもだ。『極大消滅波ヴォイド・ブラスト』で!」


彼の指先に、どす黒いエネルギーが収束し始めました。

私は慌ててその手を掴み、下げさせました。


「ストップ! 魔法禁止です!」


「……なぜだ。一瞬で終わるぞ」


「三百人もここで殺したら、死体処理はどうするんですか? 血痕や焼け焦げた跡を掃除するのは私なんですよ。それに、腐敗臭で温泉の風情が台無しになります」


「む……それは困る」


レオンハルトが引っ込みました。

彼は潔癖症気味なので、汚れるのは嫌がります。


それに、ここで王族や騎士団を皆殺しにすれば、全面戦争になります。

私はあくまで、静かなスローライフを送りたいだけ。

相手に「ここはやべぇ場所だ」と理解らせて、二度と来たくないと思わせればそれでいいのです。


私は親方を振り返りました。


「親方。工期変更です。大浴場の増築は一時中断」


「へい! では何を?」


私はニヤリと笑いました。

作業着の袖をまくり、親方の肩をバンと叩きます。


「『拠点防衛用物理トラップ』の設置を行います。今から一晩で、この村を難攻不落の要塞に改造しますよ!」


「「「うおおおおッ!! 燃えてきたぜェェ!!」」」


オークたちが歓声を上げました。

彼らもまた、作ったものを壊されるのを一番嫌う職人たち。

やる気は十分です。


 ◇◇◇


夜。

荒野に槌音が響き渡りました。


カンカン! ドゴォォン! ギコギコ!


私は陣頭指揮を執りながら、荒野の地形を書き換えていきました。


相手は魔法使い主体の騎士団。

彼らの戦術は、遠距離から高火力の魔法を撃ち込むことです。

逆に言えば、足元がおろそかで、接近戦や予想外の物理現象に弱い。


「第一防衛ライン! 落とし穴の深さは三メートル! 底には剣山ではなく『トリモチ・スライム』を敷き詰めなさい!」


「へい! 粘着度マシマシでいきやす!」


死なない程度に、しかし精神的ダメージが甚大なネバネバ地獄。

高価な軍服がドロドロになれば、戦意も喪失するでしょう。


「第二防衛ライン! レオンさん、ここに『見えない壁』を三十枚設置!」


「……面倒くさい」


「終わったら、新作の抱き枕を差し上げます」


「分かった。百枚置く」


レオンハルトの空間結界は強力です。

全力疾走してきた馬が透明な壁に激突したら……想像するだけで痛そうですね。


そして、私が担当するのはメインゲート前の最終防衛設備。

巨大な岩を削り出し、滑車とロープを組み合わせた特大の仕掛け。


「よし、可動域チェック。……良好」


私は油圧(スライム圧)ジャッキのレバーを確認しました。

これで準備は万端です。


夜が明ける頃には、村の周囲は恐るべき「アスレチック広場」へと変貌していました。

一見するとただの平原ですが、一歩足を踏み入れれば、洗礼を受けることになります。


 ◇◇◇


翌朝。

朝霧が晴れると共に、軍靴の音が響いてきました。


私は完成した高さ五メートルの石壁の上に立ち、腕を組みました。

隣には、あくびをしているレオンハルトと、ヘルメットを被ったクマ吉。

壁の内側には、武装したオーク工務店が待機しています。


やがて、軍勢が停止しました。

ジェラルド殿下が、唖然とした顔でこちらの城壁を見上げています。

無理もありません。

一ヶ月前は何もない荒野だった場所に、王都の城壁よりも立派な要塞が建っているのですから。


「な……なんだ、これは……!? 盗賊のアジトだと……!?」


下から殿下の動揺した声が聞こえます。

私は拡声器(オークの喉笛で作ったメガホン)を構えました。


「ようこそ、ジェラルド殿下! 辺境開発総督スカーレット、お出迎えいたします!」


私の声が響くと、兵士たちがどよめきました。


「スカーレットだと? あの追放された令嬢か?」

「生きていたのか……?」


ジェラルド殿下の顔が、驚愕から激怒へと変わりました。

彼は馬上で私を指差しました。


「き、貴様……生きていたのか! しかも、勝手にこんな城を築いて……!」


「殿下の命令通り、開発を進めただけですが? 見てください、この立派なインフラを。王都よりも快適ですよ」


「黙れ! 僕に隠れてコソコソと……さては、そこにある物資は全て横領したものだな!?」


やはり、話が通じません。

彼は私を「逆賊」と認定する気満々です。

彼は杖を高く掲げました。


「全軍、攻撃開始! そのふざけた城壁を魔法で粉砕し、逆賊スカーレットを捕らえろ!」


「「「オオオオオッ!!」」」


騎士たちが一斉に詠唱を始めました。

火の玉、氷の矢、風の刃。

色とりどりの殺意が、こちらに向けられます。


しかし、私はクスリと笑いました。


「甘いですね。ここは、魔法の教科書が通じない世界ですよ」


私は指を鳴らしました。

それが、開戦の合図です。


「総員、おもてなし開始!」


さあ、王子様。

楽しんでいってくださいね!

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