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ドレスを脱いで荒野で国を創る  作者: 九葉(くずは)


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第6話 王子の焦りと偽装報告の崩壊

王都の夜会。

シャンデリアの輝きも、今の僕、ジェラルド・ソルヴァニアにとっては頭痛の種でしかなかった。


「ねえ、ジェラルド様ぁ。まだ手に入らないの?」


腕に絡みついてくる甘い声。

愛人のミラだ。

彼女は頬を膨らませ、ねだるように僕を見上げている。


「……何のことだい、ミラ」


「だからぁ! 『黄昏の雫』よ! 今、婦人たちの間で話題なの。肌に一滴塗るだけで十歳若返るっていう、奇跡の美容液!」


ミラが指差した先では、侯爵夫人が小さな青い小瓶を自慢げに掲げていた。

周囲の貴族たちが、羨望の眼差しで群がっている。


「あれを手に入れたバーンズ夫人は、旦那様からの寵愛を取り戻したんですって。ねえ、私にも買って? 次期王妃になる私の方が、相応しいと思わない?」


「あ、ああ……もちろんだよ、ミラ。君が一番美しい」


僕は引きつった笑顔で頷くしかなかった。


『黄昏の雫』。

最近、王都の闇市で流通し始めた謎のポーションだ。

効果は劇的だが、値段もふざけている。

あの小瓶一本で、金貨百枚。

騎士団長の年収が吹き飛ぶ金額だ。


(……くそっ、金が足りない)


僕は冷や汗を拭った。

ミラの浪費は激しくなる一方だ。

ドレスに宝石、夜会の開催費用。

全て国庫から「機密費」として引き出してきたが、それも底をつきかけている。


もし父上(国王)に監査を入れられたら、僕の政治生命は終わる。

横領がバレる前に、何とかして穴埋めをしなければならないのに。


「ジェラルド様、愛してるわ! 期待してるから!」


ミラは僕の頬にキスをして、友人たちの輪へと戻っていった。

残された僕は、胃の痛みを堪えながらテラスへと逃げ出した。


 ◇◇◇


「――殿下。少々、お耳に入れたい儀が」


テラスの暗がりから声をかけてきたのは、財務大臣だった。

初老の古狸め。

嫌な予感がする。


「なんだ。僕は忙しいんだ」


「北の件です。『沈黙の荒野』開発計画……進捗はいかがですかな?」


心臓が跳ねた。

一ヶ月前、僕はスカーレットを追放する際、体裁を整えるために「彼女を開発総督に任命した」と書類を偽造した。

どうせ死ぬのだから、後は「開発に失敗して死亡」と報告すれば終わるはずだった。


だが、死体の確認が取れていない以上、形式上はまだ「開発中」になっている。


「……順調だよ。だが、あそこは魔境だ。成果が出るには時間がかかる」


「そうですか? しかし妙ですな。商業ギルドからの報告によると、最近出回っている高級品――例のポーションや、最高級の木材――は、全て『北』の方角から持ち込まれているそうですが」


「な……?」


僕は言葉を詰まらせた。

北?

あの不毛の大地から?


「しかも、それらは正規の関税を通っていません。密輸です。殿下、もしや開発の利益を、国庫に入れずに独占しておられるのでは?」


大臣の目が光った。

疑われている。

僕が横領の穴埋めのために、裏で稼いでいると思われているのだ。


(馬鹿な。スカーレットは死んだはずだ。魔力ゼロの女が生きていける場所じゃない)


だとすれば、答えは一つだ。


「……盗賊か」


「は?」


「盗賊どもだよ! 奴らが荒野の廃墟か古代遺跡に住み着き、そこから発掘した遺物を横流ししているに違いない!」


僕の中で、点と点が繋がった。

そうだ、そうに決まっている。

あの『黄昏の雫』とやらも、古代の錬金術師の遺産だろう。

木工品も、過去の文明の遺物に違いない。


大臣は訝しげな顔をしている。


「盗賊、ですか。では、早急に討伐せねばなりませんな。このままでは王家の威信に関わります」


「ああ、任せておけ! この僕が直々に指揮を執り、逆賊どもを成敗してやる!」


僕は手すりを強く握りしめた。

これはチャンスだ。

ピンチではなく、天啓だ。


盗賊のアジトを制圧すれば、奴らが溜め込んでいる財宝(ポーションや木工品)は全て僕のものになる。

それを正規ルートで売りさばけば、国庫の穴埋めなど一瞬で終わる。

さらに「北方の開発に成功した」という実績も捏造できる。


一石二鳥。

いや、一石三鳥だ。


「すぐに近衛騎士団を招集しろ! 魔導部隊もだ! 北へ向かうぞ!」


「は、はい! 直ちに!」


大臣が慌てて去っていく。

僕は夜空を見上げ、ニヤリと笑った。


スカーレット、君には感謝するよ。

君を捨てたおかげで、僕は思いがけない金山を見つけることができたのだから。

君はもう骨になっているだろうが、元婚約者として、君の墓標くらいは立ててやろう。

盗賊どもの死体の山の上にね。


 ◇◇◇


翌日。

僕は白馬に跨り、三百の兵を率いて王都を出発した。


装備は完璧だ。

僕の指には、王家秘蔵の「炎帝の指輪」が輝いている。

これがあれば、魔力消費なしで上級魔法が放てる。

たかが盗賊風情、僕の炎で消し炭にしてくれる。


「ジェラルド様、頑張ってー!」


見送りの群衆の中に、ミラの姿があった。

彼女は新しいドレスをねだるような目で手を振っている。


待っていろ、ミラ。

帰ってきたら、『黄昏の雫』を君にプレゼントしてやる。


「全軍、進め! 目指すは沈黙の荒野!」


意気揚々と進軍ラッパが鳴り響く。

兵士たちの士気も高い。

楽勝な任務だと思っているからだ。


道中、すれ違った一台の荷馬車があった。

商人風の男が御者台に座り、荷台には山積みの木箱があった。

すれ違いざま、商人がギョッとした顔で僕を見て、慌てて道を譲った。


「ヒィッ、き、騎士団!? まさか……」


商人の怯えようを見て、僕は確信を深めた。

やはり、この街道を使って密輸が行われているのだ。

あの荷馬車も怪しいが、今は大元の基地を叩くのが先決だ。

小物にかまっている暇はない。


「急げ! 宝の山は目の前だ!」


僕は馬の腹を蹴った。


これから向かう先に、何が待っているかも知らずに。

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