EP.04
祝勝会は、会場近くのホテルで行われた。
広い宴会場には、シャンデリアの光が柔らかく降り注いでいた。
白いテーブルクロスの上にシャンパングラスが並び、連盟関係者やスポンサー。
各メディアの人間たちがそれぞれのグループを作って談笑している。
シャンパンと香水の匂いが鼻をつく。
「五連覇おめでとうございます」
「素晴らしい演技でした」
「六連覇、期待してますよ」
笑顔で答えた。握手をした。写真を撮られた。
同じことを、何度も。
「ありがとうございます」
「これからも精進します」
「応援よろしくお願いします」
口が動いている。
——空っぽだ。
笑顔の下に何もない。
握手する手のひらに何もない。言葉を発する喉の奥に何もない。
グラスを手に取った。シャンパンを口に含む。味がしない。
誰もが俺を見ている。誰もが俺を称えている。
なのに——誰も、俺を見ていない。
彼らが見ているのは、五連覇の世界王者だ。
金メダリストだ。神崎陽という看板。
看板の裏側に何があるか、誰も知らない。誰も、知ろうとしない。
——帰りたい。
どこへ?
答えは出なかった。帰る場所など、どこにもない。
「神崎、少しいいかな」
山本コーチが近づいてきた。
「そろそろ切り上げよう。明日も取材が入ってる」
「……はい」
助かった、と思った。
この場所から逃げる理由ができた。
荷物を纏め、会場を出る準備をする。
会場を出る時、誰かが俺の背中を見ていた気がした。
振り返らなかった。
振り返っても、きっと誰もいないのだから。
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