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消えない軌跡

掲載日:2025/10/22

人の記憶は、風のように儚く、掴もうとすればするほどすり抜けてしまう。

けれど、たとえ記憶が消え去っても、心が感じた温もりや、笑いあった瞬間の光は、完全に消えることはない。


この物語は、記憶を失った少女と、彼女をずっと見守ってきた少年の話。

忘れてしまった過去と、今ここにある友情。

失われた時間の断片を拾い集めながら、二人が再び繋がっていく軌跡の物語である。


もしかしたら、あなたも誰かとの大切な瞬間を、忘れてしまったことがあるかもしれない。

でも、心の奥底に残る小さな灯は、いつか再び道を照らす――

そのことを、この物語はそっと教えてくれるだろう。

澪は目を覚ますと、自分が誰かも分からなかった。病室の白い壁、機械のブーンという音、窓の外の柔らかい光。全てが遠く、記憶は霧のように消えていた。


「……澪、覚えてる?」

低い声に振り返ると、そこには少年の姿があった。青い瞳が真っ直ぐに澪を見つめている。

「……誰?」

答えられない自分に、澪は小さく震えた。


「僕はユウ。ずっと友達だったんだ」

ユウは静かに言った。しかし澪には、名前も顔も、何もかもが遠い。



第一章:記憶のかけら


リハビリを重ねても、記憶は戻らなかった。家に帰っても、学校に行っても、澪は孤独を感じた。

ユウは毎日そばにいて、手を差し伸べる。

「一緒にやろう、少しずつでいいから」

少しずつ、澪はその声に引き寄せられていった。


ある日、二人は河原で砂に文字を書いた。

「名前……分からなくても、ここにいるよ」

ユウは指で砂をなぞり、澪の手を握った。その温もりだけが、澪の胸に小さな灯をともした。



第二章:過去の断片


ある雨の日、澪はふと自分の手帳を見つけた。そこには写真や落書きが残されていた。

笑顔の二人、肩を組む写真、そして小さな文字で書かれた日記。


「ユウと一緒にいると、世界が少し明るくなる」


ページをめくるたび、記憶は戻らないけれど、感覚だけが蘇る。嬉しかったこと、悲しかったこと、確かに誰かと共有した感情。それが、澪を少しずつ動かした。



第三章:再生の光


夏の夕暮れ、二人は古い公園のブランコに座っていた。

「覚えてなくてもいいんだ。僕たち、また友達になろう」

ユウの笑顔はあの日と同じ、澪の胸にすっと染み込む。


澪は空を見上げ、静かに頷いた。

「……うん、また、友達になろう」


過去の記憶はまだ霧の中。でも、今ここにある友情は、確かに消えない。

たとえ全てを忘れても、二人はまた軌跡を描き始める――消えない友情の軌跡を。


この物語を書きながら、私は「忘れてしまうこと」と「忘れないこと」の間にある、小さな奇跡を思い描いていました。

人は記憶を失うこともあるけれど、心の奥に残る感情や、誰かとの絆は、形を変えても決して消えない――そんな思いを、澪とユウの友情に込めました。


記憶を取り戻すことだけが幸せではなく、今を一緒に生きること、互いを思いやることこそが、真の意味で大切なのかもしれません。

この物語が、読んでくださった皆さんの胸の中にも、そっと小さな灯を残してくれたら嬉しいです。


そして、もしあなたが誰かとの大切な時間を思い出すきっかけになれば――それは、この物語が果たすべきささやかな役割なのだと思います。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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