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言葉が分からないのは不便なものである。

作者: アーク

平安時代の大妖怪が現代社会のジェネレーションギャップを感じる話

妲己、華陽夫人、そして、―――玉藻の前。


大陸から遠く離れた島国で『封神』では無く『討伐』を掲げた安倍晴明公の子孫、源氏武者により那須の地で遂に討たれて『殺生石』と呼ばれる巨石に姿を変えた彼女は長い年月風雨に晒された巨石が割れた事で密かに現代に蘇っていた。


自分が長い間巨石と姿を変えていた事もあり、その間に人間の世界は著しく発展を遂げた様だとほんの少しばかり感動した。


新しい姿は、所謂『成長すれば確実に美人になる』と言えるもので巨石になっている間に人間の世界はどの様に発展したのかを自分の目で確かめる為に、先ずは覚えている限り日ノ本、葦原中国の京の都に足を運んだ。


着物ではない衣装を身に付けた人間、見慣れない建築物や、牛を使わずに走る牛車(自動車)、何やら四角い(スマホ)に釘付けになる者、また突然その(スマホ)を耳に当て、虚空に向かって話しかける(通話)する者、様々見て彼女は思った。


『言葉がわかりませんね...』


掻い摘んで聞こえる単語は確かに日本語であるとは思うのだが、如何せん、早口過ぎて聞き取れない。

時折、道行く親切な人間に何か話しかけられて恐らく幼女の姿となった自分を気遣っているのであろうと言う事は分かるのだが、早口過ぎて聞き取れない。


ならば文章で、と地面に文字を書いて見るが、それはそれで相手を困惑させた。


ならば仕方無し、とある意味宿敵である安倍晴明公の屋敷に向かう。


『あれから1000年も経てば、同じ国であったとしても言語は変化していくものなのだよ』


何故か神社になっていた安倍晴明公の屋敷で出迎えて来た安倍晴明公とその式神である十二神将が大きく頷いてそう言った。彼奴曰く、神主が奏上する祝詞であるならば何とか聞き取れるのだと言う。


『はて、困りましたわ。折角、巨石が砕けて人の子の似姿を取れる様になったと言うのに忌々しい。これでは、帝を誑かして国盗り等、夢のまた夢ですわね...』

『帝は少し前(約100年前)に御所を京から江戸へと移して、江戸、今は東京、と言ったかな?そちらで過ごしておられるよ』

『そんな物騒でお馴染みの関東一円に、天照皇大御神の末の帝が?時代とは変わるものですわねぇ』


しみじみと呟いた彼女は『では、わたくしは江戸に向かいますわ。いえ、出雲も良いですわね...。はたまた、全国を練り歩くのも...』と言うので清明は苦笑いをした。


『10にも満たない幼女がひとりで出歩いているのを見た現代の人間は間違いなく警察に通報するだろうね。今の時代は虐待だ、誘拐だ、なんだと騒がしいから』

『わたくしを誰だと思いまして?貴方の御子孫や源氏武者に力を削がれたとは言え、簡単な幻術や暗示の類ならば問題など無く使えましてよ?』


そこで彼女は呪言を唱え、只人には自分を認識出来ない様に、また、それでも自分を認識してしまった人間には姿が10にも満たない幼子から妙齢の女性に見える暗示を自身に纏わりつかせた。


『さて、新しい名前は、貴方の名前を拝借して、―――安倍晴明(あべはるか)としますね!』


こうして、かつて日ノ本を騒がせた狐の大妖怪は1000年の開きで言葉が通じない事を気に留める事もなく全国各地を放浪していると言うのは今はまだ、誰も知る由もない物語。

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