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報われない努力

報われない努力





「偉いねぇ埼抻江(きのえ)は。」


 母さんに褒めてもらった。うれしかった。だからおしゃれも勉強も頑張る。母さんの手伝いだってなんでもやってやる!


 それから数年、私は憧れの人を見つけた。同学年で私より遥かに優秀でテストも学年一位で容姿も抜群。言ってしまえば、非の打ち所がないと言うべきかもしれない。

 ―その人は友達と遊ぶ余裕がある。―私は勉強詰めで誰一人会話が出来ない。―その人はどんなことにも冷静沈着愛想良くてなんでも出来る。―私は勉強しか取り柄無いけどその勉強でさえ出来てない。

 私とその人は、全くの正反対の存在だった。だから憧れでもあったし、羨ましかった。ただそれだけ…ただそれだけの筈。



 そんなある日のテスト順位発表の日だった。その人はいつも通りに学年一位の座を陣取っていた。それはいいのだけど……私は四位。もっと頑張らなくちゃ…あの人に追いつかなきゃ…あの人を追い越さなきゃ…

 でも忘れていた。


「なんなのこの順位は」

「………」

「学年四位ってどういうこと?」

「……ごめんなさい…」

「謝れなんて言ってないのよ、どういうことだって聞いてるの」



 ほとんどの教科で100点は取ってた。でも算数は凡ミスが多く50点…平均点より下だった。そのせいで学年四位になってしまった。と、素直に言っても、口を開けば「言い訳だ」「言い訳は聞きたくない」と言われるから言えずに謝り続けるしか無い。



「次も頑張るから…次は一位取るから……」

「その台詞、信じていいの?」

「うん…」




 ◆◇◇◇




 ―期末テスト順位発表日


「えっ…。」


 なんで…? ねぇ、なんで? どうして…可笑しいよ…こんなの可笑しい…


「なんで? なんで中間よりも下がって学年四十九位なの? 説明して」

「…えっと……」


 勉強はした。全教科やった。問題集のテストだって全部満点だった。何がいけなかったの? なんで45位分下がったの? ねぇ誰か教えて…もうわかんないよ…



「分からないなら出ていきなさい」

「え」

「聞こえなかったの? 出ていきなさいって言ってるの! こんな何も出来ない子を育てた覚えも産んだ覚えもないわ!」

「っ…!」

「出ていきなさい!」



 何がどうして、どうして何が。なんで見捨てるの…? 見捨てないで母さん…もっと頑張るから…母さんっ!



 あぁ、もういいや。









 ◆◆◇◇



 




 暗い雨の中、公園のベンチに横たわる少女―。その手には一枚のテスト用紙。



 何を言っても無駄な母親、努力しても認められない実力、追いつきたくても見てもらえないあの人……。もうこの人生嫌。唯一の家族の母親から勘当され、なにしても成果を出せない私を見てくれない…そんな私に生きる意味が無い。生きてる理由が無い。


 死ぬ前に最後に一度自分の家を見ておきたかったのに……


「火事…」


 家が燃えていた。母さんは?


 外野が私を見て安心したような顔をする。良かった、生きてて―と。無事で良かったと言ってくれる。


 その後、消防車が来て火事を鎮火。家の中には女性らしき人の遺体があったそうだが、私は知らない。

 だって私を捨てたのはあの人(母さん)だもん。


「ざまぁみろ…」






 ◆◆◆◆




 そんなことから数年、私を引き取ってくれた家族は私が点数取れなくても怒らなかった。なんならテスト頑張ったねってご褒美もくれる。そうやって甘やかされて育ち今は感情豊かな女子高生になった。



 時々思い出すあの母親…度々思う。


「自分の手で殺したかったな…♪」





 報われない努力は無い、なんて言葉信じない方が身のためだよ。

 だって今の近代社会において、努力し続けて会社の役に立っているのにも関わらず「ダメだ!」やら「何もできないな」なんて言ってくる上司は居るもので…「なんで頑張って仕事してるのにそんなこと言われなくちゃいけない」「自分達が朝まで残業してるのに仕事振ってきた上司は居酒屋で飲んだくれ起こして二日酔いですか」なんて日常茶飯事。

 この近代社会こそが、報われない努力の鏡ですよ。













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