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Episode0. 太もも

序章

この世の中には巨乳、貧乳、美乳と胸部に対する異常な数の文献、考察(主に高校生男子による:俺調べ)が存在する。他にも尻フェチや髪の毛フェチといったものもそこそこ多数を占める割合があるだろう。


その他に匂いフェチ、声フェチ。俺はまだ出会ったことはないが、マニアックなものでいえば血管フェチから口内フェチまで存在するらしい。


俺は朝の通学路で会う老若女女に挨拶を交わしながら、彼女らの身体評価を行っている。並んで歩く女子高生はもちろん、近所の女子大生、やりて風OL、妙齢の人妻、果ては60を過ぎたが趣味が筋トレとマラソンの婆さんやランドセルをつけた小学生まで。

俺は自分を偽る。目元は決して胸元を見てはいけない。どんなに男子が頑張っても、女にはわかってしまうのだ。男の視線の行く先が。


昨今は視線1つ、スマホを向けた1つですぐにセクハラだか、盗撮だかで訴訟を起こされてしまう。ハラハラハラハラ昨今の全てハラスメント扱いする風習もどうかと思うが、男に生まれた限り逆らえないのが悲しい性である。

しかし俺「遠野木 波」はそんな視線で訴えられることはない。

実に晴れ晴れした気持ちで今朝の日課をこなしていく。


「8点、8.5点、9点、7.5点」

8点を超える大台にたくさん会える今日という日はいい日だ。そんなことを考えながら顔だけは真顔のイケメン風に装い、内心は煩悩まみれの思考を今日も隠す。誰も俺のことを変態高校生と思う人はいない。今日までに築き上げた、挨拶はしてくるが、それだけといった『無害で凡庸な俺』という評価が皆の中に根付いているおかげだろう。

そう、この充実した毎日を送るには無害で凡庸で無くてはならない。視線を集めない凡人モブでなければこの日々は破壊される。これといってしたいことが他にない俺にとって、この日々を失うのは何より耐え難い。

「背景背景ッ。」といつもの言葉を口ずさむ。



仲睦まじい夫婦が経営するパン屋。頑固爺さんのいる武家屋敷。長い信号と夏は太陽の照り返しが強く、冬は寒さに震える民を生み出す開かずの交差点。


学校までの道のりはいつもと変わらない様相だった。


そう、彼女と出会うまでは。





ズサッ




フワッ


突然の暗転、明るくなる世界。

 


視界の片隅に見えた風にたなびくアーガイルだか、ギンガムチェックといったスカート。

上から目の前に降りてきた女の子。金髪の髪におくれ毛の部分に銀を混じえた長髪に見惚れた俺と、こちらを見据える瑠璃色の瞳が交わる。

肌は白に近いベージュ色で、日本人とは違った様相が伺える。何より目を引くのはその胸元。高校生にしては豊かな双丘が注目を集めそうだが、俺の関心はそこではない。

めくれたスカートの中身でも無く、豊かな胸元でもない。


そう。


俺「遠野木 波」は胸フェチでも尻フェチでも髪フェチでも匂いフェチでも声フェチでも血管フェチでも口内フェチでもない。



俺はこの時、彼女の『太もも』に釘付けだった。




太ももを愛し、太ももに生き、太ももを墓標に死にたい。

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