06 パーティーでの出会い
とうとう、パーティーの当日を迎えました。
学生服での参加なので、そこまで苦労はしませんでしたが……。
やはり、気負うものがあります。
パーティーへの参加者は、女子も男子も、それなりの人数が居ますね。
これなら、別にルシウス殿下たちに私が目を付けられる事もないでしょう。
私が見る限りでも、伯爵家以上の女子生徒がチラホラと居ます。
もし、殿下が相手を選ぶとしても彼女たち、高位貴族から選ぶに違いありません。
そもそも、大本命はアンネマリー様だと思いますけどね。
会場となった場所は、ローゼンブルグ侯爵家の広間です。
今回のパーティーに当たって快く場所を提供してくださったみたいですね。
ローゼンブルグ家は、嫡男はいらっしゃいますが、殿下とは年齢が離れており、また令嬢が居ません。それから嫡男には婚約者もいらっしゃるそうで……、今回のパーティーでは『主催者権限』で殿下と優先して仲良くする、といった事はなさそうです。
おそらく中立の立場を取れる家に、今回の主催者をお願いされたのだと思います。
「それにしても……」
侯爵家の広間は、きらびやかですね。男爵家には、こんなスペースありませんから。
そして用意されたお食事の美味しそうな事!
うぅ、婿探しそっちのけで料理に集中してしまいそうです。
いけません、私はセリアとは家庭の事情が違います。
ハートベル男爵家の未来が懸かっているのですから、頑張らないと!
「皆、よく集まってくれた。今回は難しいパーティーじゃあない。気を楽にして、まずはパーティーを楽しんで欲しい」
大方、人が集まった後、ルシウス殿下がそう宣言されました。
続いて場所を提供してくださったローゼンブルグ家の小侯爵からの挨拶です。
私は、皆に合わせて拍手をして彼らに応えました。
いよいよ、パーティーの始まりです。
「うーん」
ルシウス殿下をはじめとして高位貴族が多いので、変に目立ちたくありません。
ですが、お相手は探さないといけないのが、悲しいところ。
目立つというか、それなりに積極的に話し掛けていく必要があります。
私は、ひとまず声の掛けやすそうな男子から声を掛けていく事にしました。
皆が手探りで交流をしている様子ですね。
「そうなんですね。2年生に上がったら、そんな行事があるんですか」
ひとまず出だしは順調です。当たり障りのない話をしつつ、男子生徒に話し掛けていきます。
それだけでも、かなり緊張しますね。
しばらく、そうして過ごしてから、休憩のために広間から出ていきました。
テラスなどは人が使っていそうでしたので、中庭の方へ、お邪魔させていただきます。
「ふぅー……」
何人かの男子と、お話しする事は出来たのですが、いまいちピンと来ませんね。
まぁ、それはお互い様というか。
あちらも、今すぐ婚約を! という気分ではないでしょうし。
「大変だなぁー」
他の家、下位貴族では、近隣の領地に婚約相手が居ないか申し込むものだそうです。
もしくは領地の産業を中心に考えて家同士の契約ありきの関係を結びます。
ハートベル家の隣は、子爵領。そこには令息が居て、一度は縁談があったそうですが……。
隣領の子爵令息は、お世辞にも良い人物とは言えない方でした。
傲慢といいますか、明らかにこちらを見下しているのです。
私も嫌な想いをした事があって……。
これは、もう数年前の話なのですけど。
私に婚約を迫ろうとして来たのです。
当然、お断りしますと、生意気な……と。
「……今は関係ないよね」
なんとなく、そんな問題の人物を思い浮かべてしまったからでしょうか。
広間に戻った時、その子爵令息その人が現れました。
「ええ?」
しかも何故か、殿下の側近であるクラブ・バーメイン伯爵令息に取り押さえられています。
一体、何事?
「……あの、あれって何があったんですか?」
私は、近くに居た銀髪の男子生徒に声を掛けました。
「ん? ああ、なんかパーティーへの招待状もないのに、紛れ込んできたらしいよ、捕まってる彼が」
「ええ?」
何してるの、あの人……。
「それでバーメインさんに捕まっているんですか?」
「いや、なんかあの男が、パーティーに居た女子生徒の腕を急に掴んで文句を言っていたらしい。しかも、それが人違いだとか」
「……それって、バーメインさんに庇われている女子生徒ですか?」
「そうだね。あのピンクっぽい赤髪の子だ」
あの、何か嫌な予感するんですけど。
もしかして、あの人。隣領の子爵令息、私を探して何かしようとしました?
そして、髪色の似ている彼女を間違えて腕を掴んで……。
私の考え過ぎでしょうか?
「……大丈夫? 顔色、悪いよ、キミ」
「え、あ……えと」
実際、嫌な事を想像してしまい、気分が悪くなってしまいました。
私が悪いとは思いませんが、今、あそこで怖い思いをさせられて、バーメイン伯爵令息に庇われている女子生徒は……私だったかもしれない。
なんだか彼女を身代わりにしてしまったようで、申し訳ない気持ちが……。
「ほら、こっちにおいで」
「え?」
私は、目の前の銀髪の男子生徒に手を引かれて、テラスへと誘導されます。
……彼の手付きが優しくて、それから私も誰かに頼りたくて、なんとなく従ってしまいました。
「ほら、席が用意されているから、ここに座って。水でも持ってこようか?」
「あ、それは……」
「遠慮しなくていいよ。互いに持ちつ、持たれつだろ? 困った時はお互い様だ」
「……はい。では、水をお願いしても良いですか」
「りょーかい」
彼は、ヒラヒラと手を振って軽い感じで請け負ってくれました。
本当に私の顔色が悪く見えて、下心もなく優しく気遣われた。
そんな感じがしたんです。
「……ああいう風な人が、いいよね」
私は、ぼんやりと視線を向けながら、そんな風に思いました。
彼が水を持ってきてくれたら。
その時は、彼の名前を聞いてみよう。そう思ったんです。