13 夕暮れにハートのベルを鳴らして
私とアンセム様の関係は良好なまま、王立学園は無事に卒業する事が出来ました。
隣領の子爵とは、穏便にお付き合いできていまして、また問題の子爵令息については、アンセム様の実家や、寄親の仲介もあり、大人しくしてくれるようです。
私のそばには彼が居ますから、パーティーの時のような横暴を働かれる心配もないでしょう。
それからアンネマリー様なのですが……。
私たちの婚約が決まって翌年。秋頃になって、ようやく。
ルシウス殿下と婚約を決心されたようです。
かなり、殿下が頑張られた様子ですね。
アンネマリー様は、何故か私をよく気に掛けてくださって……。
頻繁に様子を見に来られていたのですが。
ルシウス殿下は、そんな彼女をまた追いかけてきて。
私もアンセム様と共に、殿下に直接、ご挨拶する機会に恵まれました。
二人で殿下に礼をし、婚約者であると話します。
バーミリオン伯爵家を継ぐのではなく、ハートベル男爵家に婿入りしてもらい、男爵となると。
その時は、もうお父さんたちも承認の下、我が家はローマイヤ家の寄子でしたので。
アンネマリー様の、実家の派閥であると殿下には認識されました。
「……運命なのにな」
アンネマリー様は、そんな私たちの様子を見ながら、困ったように溜息を吐きました。
「何がですか、アンネマリー様?」
アンセム様は首を傾げて、尋ねます。私も疑問に思いました。
「ううん、いいのよ。貴方たちが幸せなら」
アンネマリー様は、そうして誤魔化すように微笑むのでした。
殿下とアンネマリー様が結ばれて、ハートベル家やバーミリオン家は、めでたく将来の王妃の縁戚です。
まぁ、遠い関係ですので、だからどうなるのかは未知数ですが。
ただの男爵家なのは変わりありませんからね。
それからアンネマリー様の指摘された『明日葉』というのは、どうも薬効のある植物らしくて。
アンネマリー様の提案と共にバーミリオン家の出資で、ハートベル家で研究する事になりました。
食品としても、お茶としても使えるようです。
特色のなかった田舎の男爵家に一つ、名産品が出来ました。
アンセム様との婚約も含めて、両親を安心させる事が出来そうで、本当に良かったです。
殿下繋がりで、よく学園でもお見掛けした二人の側近の方たち。
バーメイン卿は、例の女子生徒と婚約され、無事にルシウス殿下の近衛騎士に任命されました。
それから、アランさんも正式な側近となり、殿下をお支えしていらっしゃるようです。
婚約者は、寄子の家から選ばれ、婚約されたのだとか。
王国は、大きな問題もなく、戦争も起きず。
皆さんがあるべきところへ落ち着いて、平和そのものでした。
ずっと、そうだといいと思います。
それから、セリア。学園を卒業して、なりたかった新聞記者になれたか、ですが。
「いいお茶ねー、カレン」
「ふふ、ありがとう」
はい、無事になれたみたいです。
除籍されたワケではないですが、既にティーチ子爵家を出て、記者として働き始めています。
繋がりからか、アンネマリー様の新作なども掴んで広める役割をもっています。
相変わらずの事情通なので、学生時代の友人たちも彼女との交流を続けているみたい。
私の近況はこんな感じです。
そして、学園を卒業してから数か月経って。
二ヶ月後には、結婚式を控えた私たちは、また王都で二人、歩いていました。
今日は、あの鐘のある教会へと向かっています。
例の審査には……既に通っていて。相変わらず審査基準は秘密のようですけど。
「さぁ、カレン」
「はい、アンセム様」
私は、彼と一緒に教会の螺旋階段を上がり、鐘楼を目指しました。
常日頃から手入れされているみたいです。
「わぁ……」
鐘楼に辿り着き、そこから見える外の景色に目を奪われます。
「高い場所から見る王都の街並、素敵ですね」
「そうだね」
しばし、景色に見惚れて。それから、だんだんと夕暮れが迫ってくるのを見ていました。
「そろそろかな」
「はい」
私たちは、黄金の、大きな鐘を見上げます。
なんとも歴史のある趣きですね。どうして、あのような伝説が残ったのか。
由来とかは知らないのです。アンネマリー様やセリアなら知っているでしょうか。
「あ、ここ……」
「うん?」
「『ハート』の形に見えますね?」
「本当だ」
黄金の鐘には、ハート型の模様が刻まれていました。
ハートの鐘、ベル。そう言えば、あの時、アンネマリー様が……。
「──『夕暮れにハートのベルを鳴らして』」
その言葉に聞き覚えがあるか、と聞いてきました。
もしかして、あれって、この鐘の伝説の事を示していたのでは?
「どうしたの? カレン」
「いえ、なんだか学生時代の事を思い出していました。思えばアンネマリー様のお茶会から、パーティーに呼ばれて、そこで貴方と出会ったんです。彼女は一体、どこまで先の事を見据えていたのでしょうね」
「うーん、俺たちが出会ったのは偶然だと思うけど……」
「ふふふ、そうかもしれないし、そうじゃないのかもしれません」
そして、私たちは二人で一緒に、鐘を鳴らしました。
ゴォーン、ゴォーン、という祝福を示す鐘の音が王都の街へと広がっていきます。
そのまま私たちは、大鐘楼の中で夕暮れを見て。
「カレン、愛しているよ」
「……はい、アンセム様。私も、貴方を愛しています」
そのまま、私たちは唇を重ねて──
~Fin~
『汎用グッドエンド』みたいな。
エンディングテーマは流れますが、スチルは共有スチルしか流れません。
読んでいただき、ありがとうございました!
良ければ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ボタンで評価していただけると、幸いです!
新作(リメイク作品)、投稿しました!
『傾国の悪女になんかなりません! ~蛮族令嬢クリスティナは毒薔薇を咲かせる。そして……ぶん殴る!~』
https://ncode.syosetu.com/n1292jg/
こちらも応援、よろしくお願いします!




