第89話 Bグループ (アレックス視点)
俺らBグループは三つあるダンジョンの道のうち、第三の道を進んでいる。
「右前方のゴブリンは一班、頼んだ!」
「はい!」
「二班、スライムならすぐ片付くはず!終わり次第一班の手伝いに!」
「分かりました!」
僕の指示通り、皆が動いてくれる。
「アレックス殿下、前!」
「!ああ」
僕は前から襲いかかってくる、ゴブリンの攻撃を剣で払う。
「フレッド、頼んだ!」
「分かりました!」
こちらを警戒しているゴブリンの背後を取るようにフレッドが回る。
グルァァァ?!!!
すでにゴブリンが気づいたときには、フレッドが剣を振り上げていた。
真っ直ぐに素早く降ろされた刃は、ゴブリンに防ぐことはできない。
ゴブリンの頭から真っ二つに切り裂く。
「よし、こっちは終わった」
俺は次の指示をするべく顔を上げた。
俺の更に左側にいるハンネスへと目線を移すと、ちょうど魔法を放つところだった。
「風の精霊よ、吹雪を集う、風となれ、【ブレイス・グラン・ワインド】!」
風の刃が生成され、それがラージスライムの体を切り裂いた。
「「おお!!」」
周囲から大きな歓声が起きる。
それもそのはず、上級魔法を間近で見れたからだ。
「全員気を緩めるな!次来るかもしれない敵に、」
「危ない!!!」
俺が次の指示を出そうとした瞬間、誰かから突き飛ばされる。
俺が振り返ると、今までいた場所に矢が飛んでくる。
「なっ、ってリリス!」
俺を矢から守るべく突き飛ばしたのはリリスその人だった。
リリスはさっきまで前線で一人で戦っていたはず。
そう思いながら始まる前に、耳打ちをされたことを思い出す。
『なっ!実践経験があるのか!』
『まあ、少しだけだけど』
『だが、それがどうした・・・?』
『アレックスくんって、本当はリーダーをやりたいんじゃない?』
突然の質問に俺はびっくりした。
『どうしてそう思ったのだ?』
『う〜ん、何となく・・・というか、行動を見ていてかな?』
『行動?』
『うん!クラスのリーダー決めだけど、譲っていた時の顔が何か辛そうだったよ』
俺はリリスを二度見する。
『そこまで見てくれていたのか!』
『何となく、目に入るの。そういう悲しい顔は。自分の昔を思い出してしまうから』
リリスの言葉に首を傾げる。
『と、とりあえずやりたかったら手を上げるべきだよ!遠慮なんてするべきじゃない!大丈夫、私がいるから』
そのリリスの笑顔に不覚にも心が奪われた。
「大丈夫?アレックスくん!」
「あ、ああ。ごめん、背後を取られて」
俺に矢を放ったのは後方から現れたゴブリンだった。
「今のは不意だったから仕方がないよ。それよりも、私が対処するから、前線の残党をお願い!」
「ああ!全班員の中で手が空いたものから前線の残りの敵を叩くように!」
「はい!」
僕は指示を出して、自ら前線に出る。
ふと後ろを振り返ると、すでにリリスはゴブリンの群れの中に入って一体倒していた。
それを見て安堵し、自分の戦いに専念した。
だが、それがいけなかったのだろう。
「アレックス殿下!とどめを」
ハンネスが放った魔法を避けようとしたゴブリンがバランスを崩す。
俺は自分に身体強化魔法かけ、ゴブリンの前へと素早く移動する。
グルァァァ!!
それに気付いたゴブリンが、小刀を俺めがけて振ってくる。
それに剣を絡め、手元から離させる。
武器の無くなったゴブリンの体はがら空きで、そこへ一直線に心臓めがけて突き刺す。
「これで終わりましたね!」
とどめを刺し終えた俺のもとにフレッドとハンネスが寄ってくる。
「ああ、そうだな。それより被害は?」
「はい、こちらの負傷は四人。全員が軽い怪我で治療を受けています」
だれも大怪我をしなかったことに安堵する。
「戦果は?」
「ゴブリン十体、スライム五体、ラージスライム七体です」
「そうか」
今日の中で一番の戦いではあったが、何とか無事に終えることができた。
「やっぱり、リリスは強いな」
「ええ、そうですな!」
「意外にやります」
俺ら三人はリリスを褒める。
リリスが一人で数体の魔物を相手してくれたからこそ、他の持ち場で生徒たちが当たることができた。
もし、リリスがいなければもっと一つの班に当たる魔物が多くなり苦戦をしていたはず。
「ありがとうな、リリス!」
俺はリリスがいるであろう、後方へと振り返る。
だが、そこにはゴブリン三体の死体だけしかない。
不審に思った俺は辺りを見渡す。
だが、リリスの姿が見当たらない。
「リリス、リリスはどこに行った!」
大声で呼ぶが返事は無かった。
その時、アレックスは気づいていなかった。
小さな穴とイルナの目が怪しく光っていたことを。




