第249話 計画② (アルス視点)
ルイ兄様がマーセル家の邸宅に戻った後。
自分とテラは、とある用事のために街へと出た。
二人で並びながら目的の場所へと向かう。
「「・・・・・・」」
久しぶりに二人での行動のため、話題を作れずにいた。
テラも少し頬を赤らめながら俯いており、お互いが押し黙る。
でも流石にそれだと駄目だと思い、口を開いた。
「「あのさ、・・・・あっ」」
二人共同じことを考えていたのか、言葉がハモる。
少しして、自分たちに対して二人して笑ってしまった。
「何かこうやって二人して話すのも久しぶりニャ」
「そうだね、最近は色々と立て込んでいたから」
「ん”ん”ん”!」
「ね、ねえ、ニャ。今回の任務が終わったらさ、あのさ、」
「一緒に買い物する?その〜〜デートを」
「ん”ん”ん”!」
自分から”デート”と言っておきながら、少し恥ずかしくなる。
テラも顔を真っ赤にしながらも頷いてくれた。
「楽しみニャ」
「ああ、自分も」
「ん”ん”ん”!」
自分とテラは、先程からうるさく唸ってくる奴の方を向く。
「さっきからうるさいニャ」
「ああ、黙らないと殺すぞ」
自分とテラが脅しをかけるとやっと唸るのを止めた。
縄に縛られて猿轡をされて歩かされている―――精霊術士の男。
彼はルイ兄様を襲った五人の精霊術士で、唯一話すことができたリーダーだ。
色々と拷問をしたが大した情報はでず、今日解放するのだ。
「早く歩いてくださいよ。大人を引っ張るのは結構大変なんですから」
自分はそう言いながら少しスピードを早める。
しばらく三人で歩いた。
路地裏に入り、右、左と進んでいくと。
すると不意に、誰かが襲ってくる気配がした。
自分とテラは瞬時に上へと飛んで避け、攻撃を躱そうとする。
だが、自分とテラが目を離した隙に捕虜の精霊術士がいなくなっていた。
それは本当に一瞬のことだった。
地面へと足をつけた自分たちだが、その後は何も攻撃を受けなかった。
「どうやら連れていかれたみたいニャ」
「ええ、ですね」
自分とテラは悔しそうに地団駄を踏む。
「まるで風のような速さニャ」
「自分でも見逃してしまいました」
呆然としていた自分たちは、しばらく虚空を見つめる。
「これからどうするニャ」
「一度戻りましょう。そしてルイ兄様に報告です」
「そうニャ」
「作戦は成功したと伝えなければいけませんから」
屋敷へと戻った自分たちを、レーナとオールドさんが出迎えてくれた。
「お疲れ、作戦は上手くいったみたいだね」
レーナの言葉に自分たちは頷く。
「それにしても、大胆な作戦を考えるんだな。正直怖いと思ったぜ」
オールドさんはそう言いながらおちゃらける。
何故解放したのか?
それはもちろん、ルイ兄様の策のため。
ルイ兄様が考案してレーナが作ったのが、条件魔法という新しい魔法。
とある条件のみで発動する優れモノ。
設置魔法の罠と似たような原理だが、もっと複雑らしい。
今回、あの捕虜にその魔法を仕込んだ。
もちろん本人は気付いておらず、他の精霊術士にもバレないようにしてある。
発動条件は、周囲に人が十人以上集まった時、またその内の十人から魔力が検知できなかった時。
大きな爆発音を辺りに響かせる。
結構複雑な術式らしく、レーナとルイ兄様以外は理解できなかった。
この作戦の一番の肝は、敵の人数を知れること。
もし発動しなかった場合、精霊術士が十人以下の可能性が考えられる。
逆に発動すれば、十人以上が確定でいることになる。
「盲点とか無いのか?例えば、連れ去ったやつがすぐに処分するとか?」
「それはありません。拷問をして吐いた情報では、”会議”というものがあるそうです」
「会議?」
「ええ、その会議で尋問を受けるそうです。会議のメンバーは十二人とのこと。あの捕虜も、おそらく・・・」
少し心配はあるものの、作戦は上手くいくはずと信じる。
これまでも失敗はなかったから・・・
次の日の夕暮れ。
街の北から、大きな爆音が響いた。




