第242話 主人公 (リリス視点)
「おめでとう、リリス」
「凄かったわ!」
「あのルイに一泡吹かせたじゃないか!」
「かっこよかったぞ!」
アレックス君、ミナスちゃん、フレッド君、ハンネス君たちが私の事を褒めてくれる。
[いい友達ができて良かったじゃないか]
クロがいじるように言ってくるが、私は気にしていない。
見事総合優勝もできて、最優秀選手として表彰もされた。
クラスメートとの仲も深めることができて、充実した2日間となった。
表彰式後は打ち上げがあって、ルイ君達一行以外のクラスメートたちで近くの店まで行く。
楽しく充実した3時間を過ごして解散となり、私は家へと帰ろうとした時。
不意に後ろから肩を叩かれる。
びっくりして後ろを振り返ると、そこには久しぶりに会うナーレちゃんがいた。
どこか雰囲気は変わっていて、にっこりと笑みを浮かべている。
「久しぶりね、リリスちゃん」
「そうね!2、3ヶ月振りになるかもね!」
私は嬉しくて少し声が上ずる。
最近はあまり会えていなかった、数少ない友人の一人。
[本当に少ないよな!]
クロの言葉は無視してナーレと話をする。
「体育祭で見なかったけど・・・」
「少し体調不良で休んでいたの。私に比べて、リリスちゃんは大活躍だったじゃない」
「そんなこと無いわよ。クラスメートの支えがあったからなの」
自分一人だったらここまで成長できなかった。
クラスメート、そして友達がいたからこそ、今私はここにいれる。
「相変わらず優しいね」
「そう?ありがとう」
少し雰囲気は違い、友達になりたての時と似ている。
「リリスちゃんはさ、将来何になりたいの?」
「???急にどうしたの?」
「いや、少し気になってさ」
何かをはぐらかすように目を少し泳がせるナーレ。
「・・・やっぱ質問を変えるわ。リリスちゃんはアレックス殿下をどう思っているの?」
「え!?!?!」
いきなり変わった質問に私は口をあんぐりと開けてしまう。
一瞬質問が理解できずに、少しずつ顔が火照っていくのが分かる。
[ヒュ~ヒュ~!どう思っているんだ!?]
煽ってくるクロを本気で殴ろうかと思っていた時、私の返答を聞かないでナーレちゃんはにっこりと笑う。
「いいよ、無理に答えなくて」
「え、あ、いや、」
「大体の事はわかったから」
そう言ってまた、にっこりと笑う。
何処か大人びたナーレちゃんを見て、どうしてだか咄嗟にこれまで思っていたことを言ってしまう。
「ね、ねえ!ナーレちゃんって何者なの!」
「???それはどういう意味?」
「どうして・・・いや、今の質問は忘れてくれる?」
自分でもどうしてこんな質問をしたのかは分からない。
ナーレちゃんはナーレちゃんなのに。
「分かったわ。じゃあ、またね」
そう言って、私とは逆方向に去っていく。
その背を見つめていた私は、しばらくして自分も帰路についた。
家に着いた時にはもう夜遅くで、宿屋のナルガさんはすでに寝ていた。
ドアを音を立てずに開け、ゆっくりと中へと入る。
入ってすぐのテーブルには、2枚の紙が置いてあった。
まず一枚目を手に取ると、それはナルガさんから私宛のものだった。
中には今回の体育祭について書かれており、読んでいてむず痒くなるぐらい褒めてくれていた。
[凄く愛されているな]
「うん、そうだね」
日頃から良くしてくれているナルガさんには、いつか恩返しをしなくては。
次に2枚目の手紙を手に取る。
差出人は不明の手紙・・・だけど、ナルガさんが置いているということは!!!
「師匠!」
学園に入学して以降、私は何度も師匠に手紙を出した。
だが、出した手紙の返事は未だに帰ってきていなかった。
私は嬉しさのあまり、少し目頭が熱くなる。
震える手を何とか抑えて、手紙を読もうとする。
だが、そこには一行だけしか書かれていなかった。
『助けて。例の森で』
意味のわからない、端的な言葉。
ただ分かるのは、師匠が何かしらの危機に瀕しているということ。
[これ、本当なのか?]
クロは何かを疑っているけど、これを書いたのは師匠だということを私は確信している。
見間違えるしか無い。
だとしたら・・・一体師匠に何があったのだろうか????
帰国編 2章終




