第240話 武闘大会⑤ (テラ視点)
「それじゃあ、頑張ってね」
アルスからの言葉に、ニャーは大きく頷いた。
「ルイ兄様からの言伝もあるけど聞きたい?」
「・・・・やめるニャ」
どうせ「絶対勝て」とかだと思う。
「まあ、とりあえず油断はしないように。リリスとルイ兄様の決闘を見たこと無いから分からないと思うけど、相手は強敵だよ」
ニャーたちの中でも2番目に強いアルスが言うなら、間違いはないだろう。
「精霊術っていうのは、本当に何をしてくるか分からない」
「でも、試合はいくつも見てきたニャ!」
「それでもだ。まだ把握していないものばかり。ルイ兄様の想定すらも超えてくるからね」
それを聞いてこれまで以上に緊張をする。
一応の主人であるルイは、クズでウザく最低だ。
でも、その実力は認めざるおえない。
と、言うよりもあれは人間とは別の化け物だと思っている。
ニャーなんて、太刀打ちすらできない。
そんな人でも想定できない存在。
「覚えておくのは3つ。相手は瞬間移動の様な精霊術を使ってくる。雷や水の魔法のような精霊術も使ってくる。そして近接戦もなにかの精霊術を使ってくる」
これだけ言われると、隙がないように思われる。
でも、きっと倒せる手がかりはあるはずニャ。
ニャーもここまで上がってきた実力がある。
何よりも負けてしまったら・・・・・きっとグチグチと言われる。
だから、勝たなければならない。
「行ってくるニャ!」
「うん、頑張って」
「―――最強の伏兵、テラァァァ!」
その紹介を合図に、ニャーは闘技場へと入る。
周囲にはこちらを見つめる数多くの観客。
殆どが好奇な目でニャーという獣人を見てくる。
ニャーが所定の位置につくと、すでに準備を済ませて構えているリリスの姿が。
こちらをじーっと見た後、不意に話しかけてきた。
「ねえ、テラさん」
「ニャ?」
「どうしてあのルイくんに付いているの?奴隷だって聞いたけど、無理やりじゃないの?」
聞いていた通り、正義感のある人ニャ。
もし数ヶ月前の心弱いニャーだったら、心を開いていたかもしれない。
「そうなのニャ。本当にあの主人はクズでウザくて傲慢な奴ニャ」
「辛くないの?」
「辛いニャ!本当はすぐにでも解放されたいニャ!」
「え、じゃあ―――」
「でも、ニャーの好きな人はあいつを慕っているし、ニャーの友達は何だかんだあいつについて行っている」
それ以上の理由は不要ニャ。
「ここで貴方に勝てば、あいつと同じだということニャ!いつも馬鹿にしてくるから、見返せるチャンスニャ!だから、全力で行くニャ!」
始めの合図と同時にニャーは【スモーフォグ】と唱えて煙幕を放つ。
徐々に周囲を覆っていき、視界からお互いが消える。
相手は魔法を使えない、つまり【サーチ】で認識されないニャ。
ただ、別の方法があるかもしれないので慎重に距離を詰め――
シュッ―――
動き出そうとしたら、突然目の前から剣が降ってきた。
それはリリスの剣であり、ニャーは間一髪のところで避けることができた。
すぐに後ろへとバックステップをして、煙幕に紛れる。
(どうして攻撃を受けたニャ・・・・?)
もしかして、始まる前まではニャーとリリスは向かい合っていたから、ある程度の位置は読んでいたということなのかニャ?
色々と考察はあるけど、考えている暇無いニャ。
ニャーの嗅覚でリリスの居場所は分かるから、そこへ向けてナイフを投げつける。
と、同時に後ろへと回り込んで、ナイフを避けようとするリリスめがけて右の義手を振り下ろす。
だがナイフを躱され、義手も剣で受け止められ、弾かれる。
もう一度素早く左の義手を横っ腹に入れようとする。
だが、急激に軽くなり、そのせいで感覚が合わずに空振ってしまう。
隙を作ってしまったニャーの体めがけて、精霊術でできた水の柱が直撃する。
諸に受けてしまったニャーは後ろへと吹っ飛び、煙幕の外へと転がっていく。
(もの凄く体が痛いニャ!!!)
立ち上がって態勢を整えた瞬間、目の前に突然リリスが現れる。
(分かっていても防ぎようが無いニャ!)
悪あがきのように義手で防ごうとするけど、すぐに弾かれて喉元に剣を突きつけられる。
「こ、降参ニャ・・・」
大きな歓声が会場に響き渡る。
勝者の名が会場中に知れ渡り、ニャーは緊張と疲れ、悔しさでその場に座り込んでしまう。
「対戦ありがとうございました」
憎らしいほどの笑みで頭を下げるリリス。
本当に強かったニャ。
一瞬で終わってしまったニャ。
ニャーはため息をつくことしかできない。
この後のことを考えると・・・
こうして武闘大会はリリスの優勝で幕を閉じた。




