第239話 武闘大会④
準決勝第1試合。
マリーVSテラの試合は、開始前から熱狂に包まれていた。
この大会ではそこまで注目されていなかったテラと圧倒的な強さで勝ち進んできたマリーとの1戦。
盛り上がらないほうがおかしい。
「凄い声援ですね」
会場では半々の応援の声が聞こえる。
主に学生はマリーを応援しているが、一方で一般人として会場に来ている観客は意外にもテラを推している。
「アルスはどっちが勝つと思う?」
僕の質問に熟考する。
「自分的にはテラに勝って欲しいですが、正直五分五分だと思います」
そうか?僕は圧倒的にマリーな気がする。
と、言うより決勝ではマリーとリリスが戦ってほしい。
まあ、次の第2試合でリリスが勝った場合だが。
「私は魔法使いとしてマリーが勝つと思います」
そう言うのはレーナ。
「テラを応援はしないのか?」
「もちろん応援していますが、それとこれとは違います」
???まさか、お金でも賭けたのか?
「さぁ、注目のカードの試合です!」
いきなり場内の解説が始まる。
会場に反響していた声援も静まり、全員が耳を傾ける。
「まずはこの人。獣人であり今年入学をした伏兵、ブルボン家護衛も務めるテラァァァ!!!」
・・・これは中々宣伝になるな。
ブルボン家の強さをアピールできる。
なるほど、前世でよく見るスポーツのスポンサーとかはこういった思惑だったのか。
「対するのは、圧倒的な魔法で優勝候補すらも倒してしまった新鋭魔法師、マリー・デ・エヴルーーーー!!!」
大きな声援(特に2年生から)を貰ったマリーが、答えるように手を振る。
お互いが向かい合い、審判の説明を受けた後すぐに構えを取る。
そしてす開始の合図を受け、マリーが先制するかのように魔法を放った。
テラはそれを避けると、距離を詰めるようにマリーへと走る。
だが、マリーは後ろへと下がりながら新たな魔法を打っていく。
「これはテラは厳しい戦いになるわね」
ナータリの言葉に僕らは頷く。
今までの敵は魔法を打った後、すぐに打つことができなかった。
だからこそ距離を詰めて一気に叩くことができた。
しかし相手は僕らのような無詠唱使い。
そんな簡単に間合いへは入らせてくれない。
それは本人も分かっているようで、テラはスピードをどんどん上げていく。
するとマリーは戦い方を変え、その場に立ち止まると周囲五メートルほどにバリアを展開する。
それはまるで甲羅のように隙がなく、打ち破らないとマリーへは届かない。
「なるほど、あれでは奇襲は難しいですね」
暗殺者の本質は、いきなり現れて奇襲をすること。
対象が、暗殺者が来るとは思っていないこと或いは油断していることが前提だ。
いざ暗殺者が相手と分かってしまえば、奇襲さえ受けなければ対処は可能。
例えばマリーのように、そもそもバリアで周囲を防いでしまえば奇襲はされない。
そうなると暗殺者お得意の隠密は無に返す。
定番の方法ではあるが、学生がそう簡単に対処できるものではない。
さて、攻めあぐねるテラの足は少しずつ止まっていく。
そこを見逃さずに、マリーは魔法を放つ。
バリアの外から放っているため、バリアは依然として作動している。
打つ手無し―――と思われていたところ、突然テラがマリーめがけて走り出す。
すぐにマリーは対処しようと魔法をテラへと放つが、スレスレのところで避けて突撃をやめない。
そしてバリアを目の前にすると、テラは煙幕を使って視界を遮る。
誰もが中の状況を認識できない中、僕はしっかりと【サーチ】で見えていた。
持っていたナイフをバリアへと思いっきり投げつけたテラは、そのままクルッとバクテンしてナイフと反対の方向に降り立つ。
投げつけられたナイフはバリアを割り、「パリンッ」という音が響く。
一方で視界を遮られたマリーは、バリアが割られたことを察知してすぐに割られた方へと向く。
だが、それが囮だった。
マリーが向いた方はバリアを砕いたナイフしか無い。
背後へと回っていたテラに詰められ、そのまま押し倒される。
一瞬で形勢が逆転し、マリーは降参をした。
その劇的な最後に観衆が沸き立つ。
正直、マリーはサーチさえ使っていれば対処はできていたはず。
敢えて使わなかったのか、はたまたただのミスか。
とりあえずこの試合はテラの勝利で終わった。
そして第2試合はリリスが勝ったことにより、決勝戦はテラVSリリスとなった。




