第238話 武闘大会③
目の前の戦いに、僕達だけが別のことに驚いていた。
「ルイ兄様、あれは・・・」
「ああ、間違いなく【ワープ】だ。僕が開発したはずの」
ほとんど誰にも教えなかったはず。
レーナとナータリには仕組みは教えたが、未だに習得できていない。
僕はとりあえず疑いをもって二人を睨みつける。
「私は誰にも教えていません」
「私もよ!」
二人は僕の視線に気付いて首を振る。
まあ、この二人が裏切るようなことはあまりないか。
だとするなら何故知っているか?
まさか・・・いやいや、そんなはずはない。流石に、それは。
「ルイ兄様。とりあえず探っておきますか?」
「そうだな、前から怪しい部分があったしな」
何か裏がある気がする。
とりあえずその話は終わらせて、武闘大会の観戦を続けた。
二回戦目からは流石に戦いの質が違った。
お互い譲らない攻防が続き、観客の盛り上がりも大きくなる。
二回戦に進出したリリスとテラ、マリー。
それぞれが自分の特徴を活かして試合を優位に運ぶ。
「なあ、アルス。お前なら誰と一番戦いたくない」
不意に浮かんだ疑問を隣に座るアルスに投げかける。
ただの興味本位の質問だが、意外にもしっかりと悩む。
選択肢としては、精霊術のリリス、暗殺者のテラ、両立のマリー。
「自分はリリスですね」
「それはどうしてだ」
「やはり剣士にとって魔法は天敵。ましてや何を使ってくるか分からない精霊術が一番厄介だと思います」
こいつ、自分が負けるとは言わないんだな。
まあでも、確かにアルスの考えは正しいな。
「レーナ、お前はどう思う?」
「私ですか。私はやっぱりマリーですかね」
「え!?そうなの!?」
レーナの言葉に驚いたのはナータリだった。
「何でお前が驚くんだよ?」
「だって魔法師だったら、どう考えてもテラ一択だわ」
「そうなのか?僕からしたら二人ともあまり大差ないと思うが」
どうしてだか僕を白い目で見られたので、とりあえず咳払いをしておいた。
「馬鹿な人の発言は置いておいて」
「おい!」
「普通に考えて、近接戦に魔法師は弱いのよ。テラがさっきみたいに煙幕を使って距離を縮められたら終わりよ」
たしかにそうだな。だが、レーナは首を振る。
「それは確かにそうだけれど、防げなくもないわ。感覚を研ぎ澄ませば気配だって掴めなくもないし、煙幕を晴らすことだってナータリならできるわ」
「確かにそうだけれど・・・逆にレーナはどうしてマリーを?」
「さっきの【ワープ】があるからよ」
なるほど、さっきのあれを使われたら怖いな。
「でも、一番はあの戦いで剣を正確に投げたことだわ」
???何故それが大事なんだ?
「魔法詠唱中にあんなの飛んでくるのが一番嫌」
「でも、無詠唱なら関係ないでしょ」
そうだそうだ!僕が教えた無詠唱があるじゃないか!
「無詠唱が使えるからと言って、有利に立てれるわけではございません」
「そうなの?私には強いという印象しかないわ」
「無詠唱魔法にも結局は隙があります。イメージして発動させる。それがたとえほんの一瞬だったとしても、それは僅かな間となる」
なるほど、言わんとしていることは分からなくもない。
「一流の剣士が剣を振るのと無詠唱を発動させるのは、あまり変わらない時間です。もし剣を投げられた場合、ルイ様ならまだしも避けれる自信はありますか?その後の対処はできますか?」
僕だったら、剣ごと魔法で葬るかな。
「ルイ様は黙っていてください」
おい、僕何も言ってなくねぇ!?不敬だろ、不敬!!!
「う〜ん、でもやっぱり私はテラが嫌かな」
「まあ、それぞれ苦手はあるからね」
最後はお互いを尊重して二人の話は終わった。
ちょうど次の試合が始まるところで、僕は前へと向き直る。
すると突然、隣のアルスから一枚の手紙をそっと渡される。
どうやら内密なことなので、僕は周りを気にしながら内容を読む。
しばらく目を通した後、少しため息をついた。
父からの手紙だったが、内容はとある事件について。
「アルス、中身は読んだか?」
「ええ、自分も少し関わっていたので」
「はぁ〜〜何で僕がやらなきゃいけないんだ」
「ルイ兄様に関係がありますからね」
また忙しくなってしまう。
まあとりあえず、今は目の前に武闘大会を楽しむとする。
ただの小話
ルイ「最近思うんだが、お前ら昔と変わりすぎていないか?」
アルス・レーナ「「????」」
ル「昔はあんなに僕のために喧嘩していたのに(42話参照)・・・今では主人を貶す不敬者に成り下がってしまっている」
ア「あの時代は黒歴史でした」
ル「!?!?!?」
レ「ええ、まだ子どもでしたので」
ル「貴様ら!!!」
ア・レ「「まあ忠誠を誓っているのは変わりませんが(ボソッ)」」
ル「あ”あ”??なんか言ったか?」
ア・レ「「いいえ、何でもありません!!!」」
そう言って楽しく笑う二人に向けて、ルイは怒りに任せて聖級魔法を放った。




