第235話 始まる・・・前に、
さて、朝早くから相変わらず混み合う正門。
今日の武闘大会は特に人気が高く、一般市民だけでなく地方貴族もわざわざ来るらしい。
それだけ人気だからか、屋台は昨日よりも並んでいる。
闘技場はと言うと一番大きな場所を使って行われることになっている。
ちなみにその第一闘技場は毎年満員のため、その都度拡張工事が行われている。
多くの注目を集めるだけに、参加することは名誉と大きなプレッシャーになる。
僕はというと、少し気まずいながらもクラスメートたちが集まる席へと座ることにする。
今日一日で僕の運命が大きく変わる。
勝たないといけない。
せめて3位にリリスかテラのどちらかが入賞してくれれば勝ちは決まった・・・いや、それは違うな。
後ろから1位を狙う4年生のクラスの二人が優勝と準優勝してしまったら逆転する。
残念ながらぼくは祈ることしかできないが、二人はある程度強いと認めている。
リリスには不思議な魔法、精霊術がある。
テラには国内最高峰の隠密スキルと最高の義手が付いている。
僕よりは弱いとはいえ、校内ではトップに近い。
だが、父も言っていたように何かを仕掛けてくるかもしれない。
一応は気をつけなければ。
「ルイ、裏で倍率が出てたわ」
「倍率?」
席を立ってしばらく帰ってこなかったナータリが意味不明なことを言いながら戻ってきた。
「賭け事よ。情報屋が集めた色々な情報を元に多くの人が誰かに賭けている。だから、ある程度期待値というものが分かるのよ」
対戦表と名前の下に倍率の書かれた紙を手渡されて、眺める。
「ふむふむ・・・プッ、リリスが倍率四倍!」
思わず笑ってしまうと、ギロリとアレックスに睨まれる。
「まあ、悩ましい存在なのでしょう。ルイ兄様に負けたとはいえ、その実力はずば抜けています。かと言って平民ですし、得体のしれない魔法も使う」
「大穴ってところかな?」
それでだ、テラはどうかと言うと・・・・
「プッ、リリスよりも低い7倍か」
あんなに自信満々だったのに、全く期待されていない。
「ルイ様、仕方ありませんよ。そもそもテラの存在は広く知られていません。昨日知った人が多いので、倍率は高いですよ」
まあ、それもそうだな。
「ちなみに僕が出たら倍率はどうなる?」
僕は興味本位で聞いてみたが、何故か呆れた目で見つめられる。
「な、何だよ!」
「ルイ、貴方それ本気で言ってるの?それともただの自慢?」
「あ”あ”?単純な疑問だ」
「だとしたらルイ兄様は自分のことをお分かりになっていません」
「どういう意味だ?」
「ルイ様が出たら賭けが成立しません。流石にこの国でルイ様に敵う人はいません」
・・・それもそうだな。そのためにこれまで努力してきた。
何よりも僕は選ばれた存在だからな!わははは!
「さて、話を戻しましょう。最も倍率が低い―――つまり一番期待されているのは・・・4年生の方ですが、名前を聞いたことがありませんね」
「スタール?誰ですか?」
「その人なら私は知っているわ!」
突然話に割って入ってきたのが、リリスの妹のマリーア。
「知っているのですか?」
「ええ、一応今日の出場者は全て情報を仕入れてきたのよ」
ほうほう、中々優秀だな。
「説明いたしましょう。まずは一番人気のスタール先輩。得意魔法は火と水。そしてその二つを組み合わせた融合魔法」
「なるほど、確かに厄介だ」
「魔法名家のルクヒト侯爵家の長男のため、やはり注目されています」
「ルクヒト侯爵家はうちよりも魔法に精通しているわね」
確か実家が魔法名家であるナータリがポツリと呟く。
「彼は2位の4年生のクラスでして、用心するべきかと。ただ、一番気をつけるべきは2番人気のラルト先輩かもしれません。ちなみにこの人も同じクラスです」
「誰だ?」
またしても知らない名前だ。
・・・そもそも4年生で知っている名前の人など一人もいないが。
「剣の名門である、イシュラルテ公爵家の次男です。父親は帝国軍第三部隊の隊長を務め、兄は帝国近衛師団に勤務しています」
近衛師団といえば、優秀な人しか入れない場所のはず。
「ラルト先輩も剣の腕は凄く、剣豪の域に達しているとか」
剣豪って、確か下から4番目。
その上は剣王と剣聖となっている。
アルスは剣王になっており、剣聖も後一歩というところ。
オールドのような最強しか剣聖になることはできない。
「中々手ごわそうだな」
「ええ、個人的には4年生の中では一番の実力者かと。ただ、」
「ただ?」
「魔法と剣の戦いだと、どうしても魔法が有利と言われてしまうのです。それが倍率に影響しています」
魔法名家と剣の名門。
そこに割って入るのが精霊術士と暗殺者。
残念ながら僕は戦えないけど、面白い構図になってきたな。
ある程度の暇つぶしにはなると思う。
遂に、武闘大会は幕を開けた。




