第232話 リレー (リリス視点)
ものすごく遅めですが、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!
レースの合図と同時に、一斉に先頭走者がスタートする。
私はそれを列に並びながら見守った。
全員が大きな声で応援をする中で、私も混じって声を出す。
ルイ君が留学していた間に、私とクラスメートとの関係は少しずつ変わっていった。
最初は平民だと馬鹿にしていた女の子たちも、挨拶するぐらいはする中になった。
何か大きなことがあったわけじゃない。
気付いたら、みんなとの距離が近まっていた。
私一人だったらおそらくそんなことはなかった。
入学したときからの友達がいたから。
常に話せる相手がいたから。
私は一人じゃなかったから、今もこうして学校に来れている。
『現在、一位は4年S組。それに続いてA、C、4位には3年S組が続いています!』
実況の声とともに大きな歓声が会場を包み込む。
「行けぇ!!させぇぇ!!!」
私の隣で一際大きな声で応援をするミナスちゃん。
「リリスももっと大きな声で応援しな!あーしよりも大きな声で」
ニッコリと笑いかけてくる初めての女友達。
私はそれに応えるように大きな声で声援を送る。
「あ、次は殿下ね」
10番手のアレックス君が前の人からバトンを受け取る。
4位でバトンを受け取ると、加速をして一気に3位へと躍り出る。
そのままぐんぐんと加速をしていき、2位の人も抜いて1位との差を詰める。
次にバトンを受け取ったのは、フレッド君。
勢いそのままに1位と並んだかと思うと、そのまま抜き去る。
「行けぇぇ!!そのまま差をつけろ取り巻き野郎!」
ルイ君の観客席からの声援が耳に入ってくる。
「ははは、あいつ何か必死そうだね」
ミナスちゃんが嘲笑しながらルイ君の方を見る。
「本当に何であんなに傲慢でいられているのか分からないわ。そんなことをして人に好かれるわけでも、何か大切なものを得られる訳でもないのに」
「そんなことはないわ!」
ミナスちゃんの言葉に待ったをかけたのは、何と妹のマリーだった。
「・・・あんた、よくリリスの前に来れるわね。あんなにボコボコにされて、捨て台詞を吐きながら逃げたというのに」
「そういう意味ならば、お姉さまも同じですよ。ルイさんと同じクラスにいて気まずくならないのですか?」
雰囲気が変わったのか、あまり棘にはならない言い方をしてくる。
「私はアレックス君だったり、ミナスちゃんだったり。友達もいるし、あまりルイ君とは話さないから」
「私が一人ぼっちだと言いたいのね、お姉さま」
ニヤリと笑うマリー。やはり何処かいつもと違う。
「まあお互い干渉しなければ問題ないからね。私はもうお姉さまに興味ないし、ルイさんも興味を持っていないと思うわ」」
「何よ、その”ルイさん”っていう呼び方。まるで仲が良いみたいに見せてる感じじゃない」
「さあ、どうでしょう?」
バチバチと火花を散らす二人。
「リリス!あんたもこの生意気な妹を叱ったらどうなの!ひどい目にこれまで遭ってきたんでしょ?」
「え、私?ん〜〜、マリーがそれでいいならいいんじゃないの」
「もう、リリスは優しいんだから」
どうだろう?私は優しいのだろうか?
ただもう妹に、家に興味がないだけかもしれない。
今はこの生活に満足している。
だから過去にもう囚われたくない。
でも一つだけ言っておかないと。
「マリーも自分らしく生きたほうがいいわ!元姉の助言よ!」
私の言葉にどうしてだか顔を背けるマリーだった。
レースは中盤になるとより激しい争いになる。
2位へと落ちたクラスにキレ散らかすルイ君は置いておいて、全員が大きな声援を走者に送る。
私の出番は25番目。
少しずつ出番が迫ってくる。
私は息を整えながらその時を待った。
「行けぇ!!」「頑張れぇ!」「抜けぇ!!」
遂に私の前の走者がバトンを受け取って走り出す。
順位は1位だけど、2位との距離は徐々に縮まっていく。
私はもう一度深呼吸をして振り返ると、そこには走っていたクラスメートがいなくなっていた。
「何をやっているんだ!!!」
ルイ君の怒号が聞こえて地面を見てみると、そこには転んで傷だらけになっているクラスメートの姿が目に映る。
目に涙を浮かべながらも何とか立とうとする。
だが、すでに3位へと順位を落とし、後ろからも数人に迫られている。
何とか私のところへたどり着いたときには、1位と大きく離されていた。
「ご、ごめんなさい」
泣きながら私に謝ってきたのは、私が1年生の時にいじめてきた生徒の一人だった。
でも、そんな過去のことなんて関係ない。
今はクラスメートであり、仲間なのだから。
「任せて!」
私はバトンを受け取り勢いよく駆け出した。




