第228話 始まる
さて、諸々の話を終えた僕は早速Sクラスへと向かう。
多くの人々が行き交う中を掻き分けて進み、全員が集う場所に到着。
教室へと入ってみると、すでに着替えて準備を終えたクラスメートが雑談を交わしていた。
「ふふふ、僕が来た!」
第一声にそう叫ぶと、みんながこちらを見る。
「僕が来たからにはこのクラスを勝たせてやるから、安心して付いて来るといい」
僕の言葉に真っ先に反応したのは、第三皇子のアレックスだ。
椅子から立ち上がってこちらへと歩み寄ってくる。
「これはこれは、殿下。いかがしましたか?」
「・・・本当に勝つことができるのか?」
どうしてだか弱気にそう尋ねてくる。
僕が首を傾げると、アルスが耳打ちをして教えてくれた。
「ルイ兄様。すでに話は通しておりますから心配なく」
「いや、それよりもどうしてあんな弱気な顔をしているんだ?」
「それは去年、ひどい目にあっているからです」
話を聞いてみると、どうやら第二皇子からこてんぱんにやられたらしい。
二日目の武闘大会では、見事アレックスが優勝したらしいが、全体の得点では五位だったとのこと。
なんでも、第二皇子が現四年生を使って潰しにかかり、見事潰れたらしい。
そうだ、今思い出した。
原作の方でもクラスは負けたけど、リリスと特訓をしたアレックスが武闘大会に優勝したんだった。
まあ、そんな昔のこいつらの黒歴史なんて知らん。
「ふっ、愚問だな。選ばれし僕が来たんだ、負けるわけがない」
そう言ったものの、クラスの空気は全体として重い。
まったく、負けるからそんな沈んだ気持ちになるんだ。
負けなければいつでも強くいられる。
「すいません、これを」
僕が教室を見渡していると、マリーが横からこっそりと現れる。
「ん?何だ?」
「去年のデータですよ」
去年のデータ?
「はい、それぞれがどの競技に出て結果はどうだったか。直近の身体データ。その他にも現四年生のデータなども調べておきました」
「アルス、」
「はい、昨夜に貰ってあります」
中身をパラパラとめくって眺めてみると、中々に詳しく書かれている。
「凄いな、よく調べたな」
「まあ、男爵令嬢ですから!」
ドヤッ、と決めたマリー。
どうして男爵令嬢ごときが、偉くはないのに。
「アルス、作戦はある程度出来ているな」
「はい、何通りかは」
「じゃあ、早速作戦会議だ」
さて、チャイムが鳴り全校生徒が第一運動場へと集められる。
そこで開幕のセレモニーが行われると、遂に体育祭の幕開けとなった。
第一〜第三までの運動場でそれぞれ別の競技が行われる。
あっちこっちに行かなければいけなくて大変だが、僕には転移魔法があるからな。
全ての作戦は奴らの頭の中に入れてやったし、まあ大丈夫だろ。
僕がテラの出る種目を見に行こうと歩いていると、突然十人程に囲まれた。
「・・・またこんなことをやるんですか。兄弟揃って無礼ですよ、モハッド殿下」
僕の目の前に物騒な奴らを率いてやってきたのは、第一皇子のモハッド。
相変わらず重そうな脂肪を揺らして立っている。
「久しぶりだな、ルイ・デ・ブルボン」
「はぁ、まあそうですね。どういったご要件で?」
「我はすでに国務大臣に就いていて忙しかったが、わざわざ弟の晴れ舞台を見に来たんだよ。そのついでに挨拶をしようと思ってな」
そんなわけがない。
まず、今のは自慢だろ?「僕は国務大臣だ!偉いんだぞ!」っていう。
「そうですか。それより国務大臣様はあちらの趣味は健在ですか?」
僕はその自慢を受け流し、逆に二年前のことを蒸し返す。
女装したアルスを女子だと間違えて、好色な目を向けた件についてだ。
「なっ、あれは違うと言っただろ!」
明らかに動揺する。
ふむ、どうやら何か裏があるかもな。
「おい、アルス。あの豚と―――」
「嫌です。何で自分がハニートラップを仕掛けるのですか!」
耳元で指示を出そうとすると、本気で嫌がるアルス。
流石にあんなキモい奴と夜は寝たくはないな。
「ん”ん”。まあ、とりあえずお前が元気そうで安心したよ」
「それはそれは、ありがたいお言葉です」
本当は全く思っていないけどな!
「どうだ、今なら我の陣営に入れてやってもいいぞ」
・・・やっぱりこっちが本題か。
留学していても力を拡大した僕を、そろそろ食っておきたいのだろう。
でないと、いつか腹に入り切らなくなるからな。
僕としてはそっちの方が良いが、父は良しとしない。
王家と対立することだけは避けたいらしいからな。
この前父にキツく言われたし、仕方なく少し色よい返事をしてやるよ。
「そうですね、考えておきますよ」
その答えを聞いて、明らかに顔色を嬉々と変える。
僕はそれほど偉大で価値のある人間だからな!
その場で一礼すると、そそくさとその場を後にする。
後で第二皇子の方にも似たような返事を出せばいい。
王家の馬鹿馬鹿しい戦いに付き合ってられない。
僕は僕がしたいことをやっていく。
アルスとレーナを連れて、テラのいる第二運動場へと向かった。




