第223話 可能性
さて、三年の一学期が始まって早3日。
僕の席には、取り入ろうとする子息令嬢たち、すでに派閥に入っている生徒たちの長蛇列ができていた。
上っ面だけの称賛の言葉を聞いている僕は偉いと思う。
ただ面白いのが、その上っ面の称賛の言葉も人それぞれ違う。
例えば、前の人が「無詠唱魔法を生み出すなどの功績はまさに英雄!」なんて言えば、その後ろの奴は「あのアメルダ民主国での活動行為、きっと将来は名宰相になれます」などと別角度で来る。
貴族の生まれだからこそ、取り入り方が上手い。
「ねえ、ルイ様!私をぜひ側室に!」
「いいえ、私を!」
一定数の女子がそうやって取り入ろうとするが・・・はっきり言って気持ち悪い!
そもそも僕は前世のことがあるからそういうのが嫌いだ。
「はぁ〜〜、人気者は疲れる」
「また言っているニャ」
「本当のことだからな。選ばれた存在はいつだって崇められるんだよ」
テラはこちらをジトーっと見つめてくる。
「ルイ兄様、それで彼らはどうするのですか?派閥に入りたいと仰っている方々はいれるのですか?」
「全てはレーナとナータリに任せてある」
僕はあくまでトップでしかなく、そんな面倒くさいことをやる理由がない。
配下に任せるのもトップに立つものの仕事だ!
「・・・それともう一つ。マリー・デ・エヴルーについてどうされますか?」
「あのリリスの妹か」
原作とは違い、どこか思慮深く聡明そうな奴だった。
何より引きこもっておらず、普通に学校生活を送っている。
「何度か入りたいと手紙が来ているのですが・・・」
「入れればいいじゃないか?減るもんでもない」
既に原作は崩壊をしているのだから、気を使う必要がない。
僕の味方が増えるのなら誰だろうと構わないからな!・・・ただしあだなす奴らは全力で潰すまで。
「分かりました、すぐに返答をします」
その次の日には、どうしてだかマリーが飛び級でうちのクラスに上がってきた。
「どうしてマリーが上へと上がっているんだ!」
「にい・・ルイ様。そこまで驚かなくていいでしょ!」
もの凄く砕けた感じで話しかけてくるマリー。
クラスに自分をボコボコにした姉がいるにも関わらず、平気でいる。
むしろリリスの方が気を使っている。
「おい、アルス!こいつを派閥に入れると言ったが、飛び級させろとは言っていないぞ!」
「自分も全くの寝耳に水です」
アルスも心底驚いていた。
レーナやナータリ、テラの方も見たが全員首を横に振った。
「別に頼んだわけではないですよ。もともと飛び級をしないかと学園から言われていたんです」
・・・そうか、こいつも一応は優秀な部類に入るか。
「なるほど、確かにマリーさんは2年生の中では飛び抜けています」
そんな奴を倒したリリス、を倒した僕が世界最強か!
「ですが、どうしてそこまで我々に取り入りたいのですか?」
レーナが純粋な疑問をぶつけた。
マリーはしばらく考え込んだあと、顔を上げて答えた。
「分からないわ。何となく、意味もないことをしたかっただけ、自由に生きていただけよ」
意味不明な答えを出して、全員が首を傾げた。
「そもそもニャ。リリスがいるけどいいのかニャ?」
声を潜めて聞くテラ。それにマリーは即答する。
「別に、気にはしてないわ」
あっさりとしていて、あの小説で描かれていた気性の荒さは全く無い。
「じゃあ、どうして決闘をふっかけたのニャ?」
「・・・それが宿命だからよ」
???宿命?どういうことだ?
僕はこっそりとアルスに耳打ちをする。
「なあ、アルス。そういえばマリーがどのぐらいの実力があるか分からない。知っているか?」
「ご存知じゃないのですか?てっきり知っているから迎えたのかと・・・」
イチイチ覚えてられるか!
「まあ、ルイ兄様はそういう人ですよね。マリーの実力ですが、使える魔法は一部聖級までと聞いております。そして、無詠唱も使える可能性があります」
無詠唱を?確かに僕が生み出したが、そんな簡単に習得できるわけがない。
「エヴルー家は魔法の名家か?」
「いえ、一般的な男爵家だと思います。何より、無能者と呼ばれているリリスがいるので・・・」
声を潜めながらリリスの方を見る。
「リリスに負けたというのは本当なんだよな」
「ええ、多くの見物客がいたから間違いないかと」
アルスから更に詳細の決闘内容を聞いたが、特に小説とは変わらない。
それまでの行動に違和感はない。
にも関わらず突然突拍子もない動き方をしだした。
僕が帰ってきたからか?
考えてもわからない。本人に聞くしか無いのか・・・
そこで僕の脳内に一つの可能性がよぎった。
それはありえないことのように見えて、それが無いとは言い切れない。
むしろどうして固定概念に縛られて、そういうことを考えなかったのか不思議ではない。
マリーが第二の転生者という可能性を。




