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第210話 前世 (◯✕視点)

次の投稿は16時13分です


某世界の某国の首都にて。


数十メートルを超えるビルが立ち並ぶ中、一際目立つ平屋の家があった。


周囲に負けず劣らずの敷地面積を誇るその豪邸の一室で。


私は机に向かって大学の卒論に追われていた。


一万字ほどを書き終えたところで、私はパソコンを閉じて大きく背伸びをする。


すると、突然一人の男の子が私の部屋に勢いよく入ってくる。


「◯▢!また逃げてきたの」

「だってお祖母様は厳しすぎるんだよ」


可愛らしいクリッとした目に父親譲りの茶髪。


「どうして私の部屋に来るのよ」

「だって◯✕おばさんの部屋は隠れやすいんだもん」

「誰がおばさんだ!!!まだ私は二十二よ!」


そう睨みながら言うが、飄々としている甥っ子。


もうすでに八歳であり、時が流れるのが早いと感じてしまう。


「兄さんが死んでもう六年か」


目の前の少年が生まれた時にはまだ私は高校生。


それが今じゃ私は大学卒業間近で、甥っ子が既に小学生。


「ねえねえ、◯✕姉ちゃん!」

「お、今回はしっかり言えたね!何?」

「お父さんの話をまた聞かせて!」


兄さんの話か。


「どうしていつもいつも知りたいんだ?この家の中ではいつも悪口ばかり出ているのに」

「お祖母様もお祖父様はいつも同じことしか言わないんだもん!」


『愚息』或いは『恥晒し』、か。


「でも、いろんな人の意見を聞かないと間違った知識を身につけてしまうって学校で習ったんだ!」

「それで私に?」

「うん!だって◯✕姉ちゃんはお父さんのこといっぱい知ってそうだし」


私はあの両親に囲まれながらも、しっかりと公平な判断のできる子供になった甥っ子の頭をワシャワシャと撫でてあげる。


まんざらでもなさそうに体をくねらせる少年を見つめながら、思い出すように答える。


「そうだね、じゃあ兄さんの性格の話をしようか」

「父さんの性格?」

「うん。兄さんはね、とにかく傲慢な人だったわ」


甥っ子は聞き慣れているとばかりに、露骨に顔を顰める。


「それ、お祖母様にも聞いた!」

「そうね、あの人なら耳にタコができるほど言うと思うね」


それだけ両親と兄の関係は終わっていた。


「でも、事実傲慢な人なのよ」

「ねえ、◯✕姉ちゃん!”傲慢”って何?」


・・・まずそこからか。


「傲慢な人っていうのは、人を見下すような人のことを言うんだよ」

「へぇ〜〜〜、そうなんだ。じゃあ、父さんは悪い人?」

「う〜〜〜ん、少し合っているけど別に悪人じゃないよ」


私は言葉を選ぶ。


「昔からあんな両親に育てられてきたからそう育ってしまったの。昔の偉い人もあんな感じの人が多いのよ」

「へぇ〜〜〜」

「だから、今の人から見たらそう見えてしまう。生まれてくる時代を間違えてしまった人なんだ」


私の言葉に首を傾げる。


まだまだ子供だ。


「私から見て、兄さんは孤独な人なんだ」

「孤独?」

「まあ、可哀想な人っていうべきかな」


親の期待という重圧を受けて潰されそうになった結果、悪い方向に性格が曲がってしまった。


もし、普通の家庭に生まれていたらまた違った人格であったかもしれない。


「じゃあ、父さんは独りぼっち?」

「そうよ。兄妹関係は悪くなかったけど、私と性格が正反対だからあんまり話すことがなかったのよ」


だから兄さんの苦しみを理解できなかった。


「ねえ、誰も教えてくれないけどどうして父さんは死んじゃったの?」

「それは・・・」


少年相手に、父親の自殺のことなんて言えない。


「重い病気になったのよ」

「そう、なんだ」


私は嘘を教えることしか出来ない。


「あ、そうだ!兄さんの少し変わったことを教えるよ!」


私は暗くなりそうな話題から変える。


「兄さんって、一人称は”僕”なんだよ」

「いちにんしょう、って自分の呼び方?」

「うん、そうだよ」

「それが、父さんは何なの?」

「偶にね、”俺”って言う一人称を言う時があったのよ」


本当に偶にだ。


両親の前では全く見せない、自分の本音言う時によく使っていた。


兄さんにとって、”僕”というのは本音を隠す時によく使うものでもある。


でも、私は詳しくは知るわけがない。


だって、兄さんのそれが本音なのか確認はしたことがない。




ふと時計を見ると、既に一時を回っていた。


「◯▢、私はそろそろ大学に行かないといけないのよ」

「え〜〜〜、もっとお話しようよ!」


クリッとした可愛い目で私を見つめてくる。


私は抱きしめたいのをグッと堪えて、支度をする。


「お母様は基本的にこの部屋に入ってこないから、好きにしてていいよ」

「本当!」

「ただし、あの段ボールに入っている物は見ないでね。兄さんから貰った大切な形見だから」


私は隅の方にあるボロボロの段ボールを指差す。


「うん、分かった!」


元気よく返事をする甥っ子を残し、私は部屋を出る。


玄関を向かう途中、お母様とすれ違う。


こちらに一瞥もくれずにスタスタと歩いていく。


そのまま私は執事の△▽に車で大学まで送ってもらった。



・・・・・・甥っ子とが最後の前世の会話となった。



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