第186話 南の国で（三人称視点）
「報告です。パンケーキの売上がまたも最高記録を更新しました」
「ほう、そうか」
「北の帝国でも徐々に食べられているようです」
黒髪の黒目の異質な雰囲気を出す少年がニコニコと報告を聞く。
「他はどんな感じかな？」
「『マヨネーズ』や『プリン』ですが、こちらも王国では少しずつ広まっています」
「そうか、それは嬉しい！」
「『オセロ』や『トランプ』と言った娯楽も、貴族間で大変重宝されているとのこと。今や若様は公爵に匹敵するだけの財力をお持ちになっています」
それを聞いて少年は椅子にもたれかかる。
「そうか、もうそこまで稼いでいたのか。でも、まだまだ俺の夢には届いていないな。必ず、この大陸の経済を掌握するまでになりたい」
「それは・・・また大きく出ましたね」
「実現できると思うか？」
「愚問です。これまで不可能なことを可能にしてきたのが若様ですよ」
二人はお互いが見つめ合い、そして笑い合う。
「セルード、いつもありがとうな」
少年は目の前の老執事に頭を下げる。
「いえいえ、若様にお仕えするのは楽しいことばかりです！」
「そう言ってもらえるてありがたい」と少年ははにかむ。
ドンッ
「大変です！西の森で魔物が現れました！」
勢いよく部屋に入ってきたのは尖った角を生やした銀髪の少女。
「マイヤ、いつもノックをして入りなさいと言ったでしょ」
「あ、すいません」
「セルード、そこまで怒らなくていいだろ。マイヤ、報告ありがとう」
「えへへ、それほどでも」
少年に褒められて蕩けたような顔をする少女は、一応は『ドラゴン』なのだが・・・
「御主人様！ナデナデして！」
「はいはい、いつもありがとうマイヤ！」
少女が少年の膝の上に座り、甘える。
それに答える少年との会話は見るものが距離を置きたくなるほどのイチャつき。
セルードは、未だにこの少女がドラゴンだと信じられない。
でも姿を変えているところを見たことはあるし、本人も自称しているから間違えがないだろうが・・・
それよりも、だ。
セルードはこの後に起こるだろうことが頭をよぎり、逃げ出したくなる。
ドンッ
「やっほぉ〜〜〜久しぶｒ・・・・誰をその女！！！！！」
またもノック無しに部屋へと入ってくる女性。
こちらは少年より少しばかり年上であり、妖艶な姿をしている。
「あ、アレー姉！どうしたの？」
「フフフ、もちろん、貴方に会いに来たに決まってるじゃないですか！」
ああ、始まる。
セルードは部屋の隅で大人しくすることにした。
「でも・・・とんだお邪魔虫がいたものね」
「何ですって！」
煽られたマイヤは勢いよく立ち上がる。
「こんなちんちくりんの何処がいいのよ」
「何、喧嘩を売っているの？コウモリのくせに！」
アレーと呼ばれた妖艶な女性は、吸血鬼である。
あの血を吸って生きている吸血鬼だが、アレー自体は吸血鬼女王なので、日光を克服している。
「我らをコウモリと蔑称するとは！この胸無し！」
「おっぱいお化け！」
二人が罵り合うのを困惑したように見る少年。
助けを求めるようにセルードを見るが、彼は巻き込まれないように見てみぬふりをする。
そんなこんなをやっているとまたも、今度は幼女がするりと部屋に入ってくる。
「にーに！」
「モカ！」
気配を消しながら少年の膝に座るのは、彼の妹であるモカ。
今度は兄妹でいちゃ付き合うのを見て、女同士の喧嘩をやめた。
マイヤは自分の座っていた場所を奪われて、だが主人の妹をどかすわけにもいかず羨ましげに二人を眺める。
コンコンッ
「すいません。モカちゃんがあまりにも会いたがっていたので」
ノックをして入ってきたのは胸当て、肘当て、膝当てをした騎士のような姿の少女。
「お、フレデリカ！いつ見ても可愛いね」
「え、あ、ありがとうございます！」
ポッと顔を赤らめるフレデリカ。
いつもながらの女たらしでセルードはもうお手上げポーズを取る。
「どうしたの、急に？」
「あ、そうでした。二つ、お伝えしなければと思って」
「何？」
モカの頭を撫でながら聞く少年。
「まず、ヒスターナ様は本日体調がすぐれないすぐれないため来られないとのこと」
「そうか」
落ち込む少年。
「もう一つは、あれが完成したとのこと」
「まさか、あれが！」
「はい、一応完成品を持ってきております」
そう言ってフレデリカは細長く後ろが曲がった筒を持ってくる。
「セルード、これが前にも言っていた『銃』という奴だ」
「これが・・・」
「まあ、火縄だけど」という呟きは聞こえず、ただセルードは不思議そうに眺めた。
「これはずっと先の方の敵まで殺せるすぐれもの」
「制作されたドゴンさんんも驚いていました。『戦争が変わる』と」
それを聞いてまたもニコッと笑う。
「ラインハルト様、貴方は・・・いいえ、何でもありません」
セルードは開いた口を閉ざす。
第三大陸ドルト王国にいる歴史を変えようとする少年、ラインハルトはまだまだ無名だった。
申し訳ありません。
明日は、投稿休みます。
