第174話 分からせ
「さて、いくつか答え合わせをして行こうか」
アルスたちが裏切っていることが信じられない様子のクラスメートたち。
クラスメートって長いから、モブ民とでも呼ぼう。
一部帰ろうとするモブ民たちを引き留め、僕は話し出す。
「君たちは本当にお馬鹿だね~。アルスたちが味方だと勘違いしていたんだ?」
モブAが凄い形相でアルスを睨む。
「どうして君は裏切ったんだ!」
「別に裏切ったわけではありません。それに、貴方がたの味方になった覚えもありません」
アルスは冷たく突き放す。
「あんなに自分の主人の悪口を言っておいてか?」
おいおい、そんなの聞いていないぞ!
「あれはただ、自分がこれまでされたことを言ったまでです。それにまず、いつ自分が、助けてくれ、と皆さんにお願いしましたか?」
「それは・・・・・・・」
委員長は口を噤んでしまう。
「気づいたらあの裏会議に自分もレーナも参加させられていました。だから、それを利用したまでです。何か自分たちにおかしな点はありますか?」
アルスが聞き返す。
するとモブ民の中から一人の女子生徒が大声でレーナに向かって質問をする。
「レーナちゃんも私達を騙していたの!?」
「先ほどのアルスの話のとおりです」
レーナはそう静かに告げる。
「君たちはこんなクズ野郎の仲間でいいのかよ!?」
「一つ、言いたいことがあります。巷で話題になっているルイ兄様の噂。あれって、ほとんど嘘情報、デマですよ!」
ああ、そう言えば何か言われてたな。
幼女趣味だの、違法な薬を売っているだの、怪しい仕事を斡旋しているだの・・・
「嘘なら、それがどうしたって言うんだ?」
「嘘に踊らされる人間は馬鹿です。嘘を流す人間も最低です。もちろん、戦略的に嘘を流す場合もあるかもしれませんが・・・でもいずれにせよ、勝手に嘘情報を流された側にすれば、たまったもんじゃないですよね」
アルスの言いたいことは何となく分かる。
例えば、何らかの理由で僕が僕自身に関する嘘を流す分にはいい(”最低”であることは変わらないらしいが・・・)。しかし、勝手に僕に関する嘘を流されるのはむろん僕の気分を害する。
「ちょっと待って!委員長、あれは嘘だったのか!?」
「私達にデマを流させたの!?」
「あんた、俺達を騙していたのか!?」
アルスの話を聞いてモブ民の厳しい攻撃が、モブAへと向けられる。
おそらく、僕に関する嘘を創作し、それを意図的に会話に織り交ぜ自然と嘘情報が流れるように仕向けたのだろう。
その手腕は褒めてやる。
「う、うるさい!命令に従っただけなんだ!だいたい、お前らだってルイの悪口言って楽しそうにしていたじゃないか!」
「騙していた奴がよく言うよ!」
「倒してやる!だの、潰す!だの、全員意気込んでいたくせに、そうやって人を責めるな!」
「何だと!」
あらら、内輪もめを始めるとは情けない。
僕からしたら全員同罪だ。
貴族である僕に歯向かった時点でな!
「はいはい、君たち静粛に!この場では僕の命令が絶対ですよ!」
「何だと!」
「あれれ、そんな反抗的な態度を僕に取ってもいいのかなぁ?」
「くっ!」
こっちはこいつらの弱みを握っているからな。
「さて、君たちの愚かな作戦は無残にも失敗した。ちなみに、え〜っと、どんな作戦だっけな?」
「ルイ様の弱みをちらつかせて勝負を挑む。どんな勝負かは私も忘れましたが、いずれにしてもルイ様が負けることを想定しています」
「それで?」
「ルイ様は貴族だからそういうプライドを賭けたゲームや勝負には絶対乗ってくる。そこで心を完全に折る。さらに恥をかかせる。つまり、本来学校では無断でこうした喧嘩をしてはいけないことになっているので、その罪をルイ様になすりつける」
「学校の中で起きた不祥事だから、外部からの干渉もあまり受けないと」
「ええ、それでルイ様を退学処分にうまく持っていく・・・」
「なるほどな」
レーナが端的に説明してくれる。
つまり、僕が留学前にリリスに対して使った策をやられた、ということか。
ただし、僕の場合は僕自身を追い出すためだったが、こいつらは僕を追い出すためにそれをやった。
だが、その作戦は僕には通用しない。
「クソ、何で俺らが負けるんだ!」
「ルイの方が悪者なのに!」
ボソボソとモブ民は僕のことを貶め始める。
その言葉にアルスとレーナが反応した。
「「どの口が言う!!!」」
綺麗に二人はハモる。
「自分たちの行動を棚に上げてよく言いますね」
「ルイ様は面倒くさい方ですか、基本的には悪事はしません」
「ええ、もう少し正確に言うなら、ルイ兄様はやるときにやりすぎなだけで、結果は悪ではありません」
ん?けなされてる感も多少あるが・・・今は無視しよう。
「それに比べて、貴方がたは人の事をああだこうだ言える立場ですか?」
「どういうことだ?!」
モブAが聞き返す。
「ルルドくんへのいじめですよ!」
「はぁ?ルルドが何だって言うんだよ!」
「それはつまり、貴方たちには自覚が無いと・・・」
「だから、私達は貴方方が嫌いなんです」
まあ、民主主義社会じゃなくても、どこでも起こることだ。
ただ平等を掲げ、差別を無くそうとなどと叫んでいる奴らが、気づかぬ内にやっているのはシュールとしか言いようがない。
「貴方方は、ルイ兄様に文句を言えるほど綺麗な人間ですか?」
アルスの質問に、全員が押し黙る。
もう誰も何も言えない。
ふむ、分からせることはできた。
が、何か足りない。
リリスを倒したときほどの爽快感を感じないな。
やっぱり、敵の大将を潰さないとな。
「よし、次の作戦に行くぞ!」
三日後、僕らは進学クラスに対戦を申し込んだ。




