第170話 重要情報
「なあ、あいつの調査は終わったのか?」
「ええ、特に問題はありませんでした。怪しい点はほとんどなく、付き合っても問題ないかと」
アルスの言葉に僕は頷く。
時は二学期の始め。
とある生徒に目をつけていた僕はそいつを自分の手駒にするべく情報を集めていた。
そしてついに話しかけるときが来たのだが・・・
「おい、ルルド・アレイス!僕の手駒となれ」
「・・・え!お、俺っすか!・・・・いきなり、何ですか?そ、それは、できません」
そう断られた。
ルルド・アレイスはこの学校のクラスメート。
と言っても、ルルドは僕と同じくクラスの中では浮いた存在。
生徒たちからは無視され、誰とも話さず、一人寂しく教室の隅の方で本を読んでばかり。
所謂いじめの標的となっている生徒だ。
初日に僕に喧嘩を売ってきたあの不良どもに、ルルドが呼び出されているのを度々目撃している。
そして、傷だらけになって帰ってくるところもよく目にしている。
だが別に、奴を助ける義理はないから無視している。
ところで、ルルドがいじめられている理由、クラスから厄介者扱いされている訳は明快だ。
彼の親が反政府の活動家だからだ。
この普通コースには金持ち(権力者)の子弟が多い。
彼らの親は、大抵、政府と何らかの繋がり、利害関係を持っている。
僕の前世の家だって、大物政治家と密に繋がっていた。
金持ちと政府の癒着は今に始まったことではない。
そんなのはイデオロギーに関係なくよくあることだし、否定するつもりはない。
もちろん金持ちは、政府の癒着を批判する人々を嫌っている。
仮にその政権が変われば自分たちが甘い蜜を吸えなくなる。
だから彼らは全力で反政府活動を止めにかかる。
民主主義だ、市民社会だ、とか言っても、それだけで素晴らしいだなんてあり得ない。
いつの時代にも必ず強い力の思惑、覇権が生まれ、そのはたらきによって世の中の物事が動くのはどこも一緒。
ある意味政府の方が立場は弱いのだ。
そもそも国家運営なんて綺麗事だけではやっていけない。
清濁合わせ飲む度量が、いや、善人面する人間ばかりいる世の中では、汚れてこそ均衡が保たれるというもんだ。
・・・話を元に戻そう。ともかく、ルルドは反政府活動家の息子というレッテルを貼られ警戒されている。
それが学校内では結果、いじめという形になっているというわけだ。
ところで、なんでそんなルルドに僕が話しかけたのか?
友達が欲しいから?誰かに構ってほしいから?
どちらも全く違う。
では、手下が欲しいからか?
それも正確には違う。
とりたててこれといった特徴もないルルドを手下にする積極的理由はない。
ましてや、いじめられているルルドに同情している訳でもない。
民主主義、資本主義なんて所詮、階級社会の一部でしかない。
格差も生まれるし、理不尽も生まれる。
そういう意味で、貴族社会と何ら変わりはない。
要するに、平民が夢見る平等などどこにも無い!
だから、彼がいじめられようと差別されようと気にはしない。
僕がルルドに接触する理由、それはただ一つ。
彼が重要な情報を握っているからだ。
だが、その肝心の重要な情報とは何なのか、まだ僕は知らない。
ルルドはこのラノベ小説世界において、一年後に登場する。
親が警察に逮捕される前に逃され、学園に入学した。
そして、リリスに出会う。
そこで、とある情報を彼女に渡すが、その情報が重要になるらしい。
ただ、詳しくは書かれていなかった・・・はず。
おそらく精霊についての情報だろうと予測している。
だから、リリスが手に入れる前にその情報をを奪いたい。
そうすれば、主人公リリスを弱体化できる!
だが・・・
「あいつ、僕の誘いを断りやがった」
ルイ・デ・ブルボンだぞ!
「ルイ兄様。あのように高圧的では、話を聞いてもらえません。ここは帝国ではないのです」
「そんなの関係ない!」
「はぁ〜〜〜。・・・それだから友人ができないのですよ」
呆れたように溜息をつき、何か失礼なことをボソリと口にする。
とりあえず、あいつが持っている情報を何としても手に入れたい。
そのためにどうするか・・・
「そうだ、あいつの家に行けばいいんだ」
「ルイ兄様は本当に、自分らが最も恐れている最悪プランを思いつきますね」
そうか、照れるな!
「褒めてません」
心を読んでツッコんでくる。
そうして僕らは三日後、ルルドの家へと行った。




