第161話 突然・・・ (アルス視点)
最近の日常は落ち着きつつある。
テラがヒステリックになる事も少なくなり、段々と一緒に話せるようになってきた。
家族の事には極力触れず、好きな事、もの、やりたい事…
何かしら話題作りに努めた。
そんなある日、
「そう言えば、アルスのお兄さん?ご主人様?に会ったこと無いんだけど?」
ああ、そうか。奴隷市場で買われた時は、まだテラの意識は朦朧としていて周囲の判別もつかない状態だったんだ。
「最近は自分もあまり分かっていないんだ。どこに行ってるのか・・・」
ルイ兄様はあれ以来ここに来なくなったし、自分自身もここ最近は会えていない。
でも、自分は充実した日々は過ごせている。
学校のクラスメイトと喋るよりもよっぽど楽しいし!
「じゃあ、最近学校であったこと教えてニャ」
「ニャ?」
「あっ!」
自分自身の口から出た語尾にびっくりしたテラは、恥ずかしさからか毛布にサッと隠れる。
たまにあることだ。
そして耳と頭をちょこんと出して、顔を赤くしながら言うのだった。
「い、今のことは忘れ―」
「はーーーい、すいません!失礼しまーす!運ばせていただきま―す!!」
「「え?」」
いきなりドアから入ってきたのは、見知った使用人の一人。
「ルイ様の命でテラちゃんを運ばせていただきまーーーす!」
突然すぎて、頭の処理が追いつかない。
その使用人は毛布に隠れるテラをヒョイッと持ち上げて、どこかへと連れて行こうとする。
理由が不明だが、とりあえずついていくことにした。
向かった先は、自分の知らない屋敷内の地下室。
部屋に入ると、中央に何故か置かれたベッドへテラは連れていかれた。
次に使用人は黙々とテラの胴と首に拘束器具を取り付けた。
そして何事もなかったかのように、使用人は自分に一礼してその場から静かに去っていった。
「え、あ、え、い、いやぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
そうだった、この状況を理解する前にテラのことだ。
ひどい実験をされたらしいから、何かトラウマが―
「ニャーニャーうるさいんだよ、獣人がっ!」
使用人が去っていった扉から入れ替わるように入ってきたのはルイ兄様、とその後ろにはレーナが。
「早速始めるぞ!」
え、何を?
言うが早いか、ルイ兄様は腰の剣を抜き、思いっきり振り上げて、テラの先の無い両足の両膝辺りへと一気に振り下ろす。
「い”い”、いぎゃぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
剣で斬られた断面から大量の血が吹き出す。
その想像すらできない痛みに、テラは大声で叫び散らかす。
「一体これは、何なんですかぁ!!??」
自分でも抑えきれないほどの、かつてないドス黒い感情がルイ兄様に向かう。
「まあ。見てな。やれ、レーナ!」
「ルイ様、もう少し穏便にやってください。・・・ごめんね、少しの辛抱よ」
「いだい、いだいいだい、い”い”!!!」
レーナは泣き叫ぶテラの足元へ近寄り、優しく声をかけた後何かを小さく唱え出した。
「【蘇れ】」
その瞬間、緑色の魔法陣がテラの両足に展開される。
と、同時に吹き出していた血は収まり今度は両膝の傷口がグツグツと動き出す。
「な、な、なにこれ、痛い、痛い痛い、い”たい!!」
叫ぶテラの両膝から肉の芽が息吹き始め、やがて塊のようなものが作られていく。
レーナは泣き叫ぶテラの傍らで両膝近くにその手を構えながら目をつむり、静かに何かを集中してイメージしている。
すると、少しずつ膝、スネ、足首、そして足が作られていく。
「いだい、い、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・あ、あれ、足がっ!!」
今まで失っていたはずの両足がいつの間にか再生されていた。
「・・・・そうか!再生魔法か!?」
自分はそう結論づけた。
「よし、次だな」
「えっ!」
テラの両足がいつの間にか生えてきた困惑と驚きの渦中、ルイ兄様はまたもや剣を振り上げて、今度は両肘へ左右順番に振り下ろしていく。
「ぎぁぁぁ、はぁぁ、いだ・・ぎゃあああ、い”たい、い”たい」
またも、断末魔のような声を上げて苦しみ出すテラ。
ルイ兄様はそんなテラの様子にはお構いなく、淡々とレーナへ次の指示を出す。
「人使いが荒いですね」
レーナは文句を言いながらも、両肘に手をかざし同じ魔法を使う。
先ほどのように両肘の先が泡立ち肉の塊が生成され、少しずつ両腕も形作られていった。
「ふぅ〜〜〜〜、まあここまでは何とか出来ました」
レーナは一息つく。
テラの両腕は元通りとなったが・・・・手首から先、両手だけは再生していなかった。




