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第156話 弱味

買った奴隷は奴隷商の手下に家まで運ばせた。


家に到着するまで会話もとくに弾まなかった。


帰宅した僕たちを出迎えたのは家で待機していた執事のセバスだ。


「お帰りなさいませ、ルイ様。予定より遅くお帰りでしたね・・・」

「ああ、ちょっとな。それより、面白いモノを買ったぞ。な、そうだよな!アルス、レーナ!」

「「あ、はい・・・」」

「よし、アレを運び入れておいてくれ」


二人に指示を出すと、すぐさま部屋を出ていった。


「また・・・ですか?」

「なんだ、なにか不満か?」

「いえ、ご当主様にお叱り受けると思うと・・・」

「セバス、そのことなら心配するな!大丈夫だ。僕が言えば、父上は簡単に黙らすことができる・・・」


なにせ、父上の弱味を握っているからな。


「それよりも、だ。セバス!今回買った奴隷を見てくれるか?」

「は???はい。分かりました・・・」


僕はしめしめとばかりにセバスを部屋から連れ出して行く。


使用人に、購入した品を置いた場所を聞いてそこへ二人で向かう。


すでにモノは部屋に運び入れたらしいが、急ごしらえのため、部屋の整理や生活必需品の搬入など慌ただしく人が出入りしている。


傍らにいたアルスが僕に近寄ってくる。


「で、どうなんだ、奴は?」

「相変わらず、特に喋るなどはしていません。話すことができないのか、或いは話したくないのか。でも、眠たいようだったのでベッドで今は寝かせています」

「そうか」


報告を聞きながら部屋の中へと入る。


それまで澄まし顔のセバスであったが、目の前の奴隷を目視するや表情が変わる。


それを見逃さずに、


「ん!どうしたセバス?なんだかお前、顔色が青いぞ!?」


そう煽ると、セバスはすぐに普段の冷静沈着なポーカーフェイスに戻った。


お見事!流石、執事である。


だが、先ほど一瞬垣間見えたセバスの動揺で僕は確信した。


「この者は?」

「元暗殺者の獣人族です。ブルボン家に忍び込んで返り討ちに遭い、それでこのような・・・になったそうです。・・・ルイ兄様が買われたのは、ひょっとして、そういう理由ですか?」


おや!アルスも気づいたらしいな。


傍に控えるレーナも遅れて、何かに気づいたような顔をする。


僕は、部屋のドアを閉めさせた。


この場にいるのは僕とセバス、アルス、レーナ、そして、この奴隷だけ。


「フフフ、セバスよ!お前、遂に尻尾を見せたなぁ~!?」


いや、おかしいと思ったよ!


セバスが普通の執事、なわけがない!


そう言えば、普段の立ち居振る舞い、動き、視線、言葉遣い・・・からして、どこかいつも何かに警戒している様子で、セバスにはいつも”執事”らしからぬ点もあった。


それに、よくよく考えてみれば、僕の学園へのお供も今回の留学中の付き添いもオールドではなく、執事のセバスだけ、というのもおかしな話だ。


仮にも、僕はブルボン公爵家嫡男であり、次期当主だ。


いくら僕が無詠唱魔法を使えて、アルスやレーナの二人の従者が傍にいるからといっても、まだまだガキに過ぎない。あの父上が、強い護衛を付けないわけがない。


まあもちろん、オールドは騎士団長だから忙しいにしても、ブルボン家にはオールドの他にも強い騎士は何人かいる。


にも関わらず、ブルボン家から派遣された護衛は並みの騎士十数人だけ。


もちろん、ここ現地でも護衛を雇っているため、留学中のこの屋敷は、数十人の騎士によって一応は守られてはいる。


しかし、刺客や暗殺者など特別な防衛対策については対応は難しい。並の騎士では心もとない。


オールドのような「個の武」が強くない限りは・・・


それに、暗殺対策や諜報活動などを担う秘密部署については、ブルボン家内で僕はまだ聞いた記憶がない。


だが、むろん絶対あると確信している。


なにせ僕の行動や学園で起こした騒動のほとんどが父上に報告されていた。


多少その報告に抜けはあるようだが、それは、そこまで見張られている訳でないからだろう。だが、重要な事はほぼ父上に伝わっている。


「さて、セバス。僕の推理は合っているか?おそらく、そこの奴隷も、お前があのような無残な姿にしたのではないか?」


唐突な僕の質問にしばらく沈黙していたセバスであった。だが、流石に観念したか、その場に片膝をついた。


「まさか、バレてしまうとは!隠していた事、申し訳ございません!」

「なに、別に気にはしていない」

「ありがとうございます!ただ、一つ訂正させてください。私はその者の四肢を斬った犯人ではありません」


えっ!セバス、お前ではないのか?


「はい、確かに戦闘はしました。若いながら優秀な暗殺者でしたが、それでも私には遠く及びませんでした。私はその者の片腕は斬り捨てました。ですが、残る手足まではさすがにやっておりません」


戦闘だから腕の一本ぐらいは失くしても仕方ないだろう。


だが・・・なるほど。


たしかに、セバスが暗殺者の手足を残らず斬る理由など、どこにもないか。ただ、侵入者を殺せばいいだけだ。


おそらくセバスは片腕を斬り落としたが、逃してしまったのだろう。


ブルボン家の最強執事兼暗殺者から逃げおおせたとは!逆に、この獣人奴隷、なかなかのウデだったのかもしれない・・・もはや”腕”はないがな!ククク!・・・いやいや、さすがに不謹慎か?アルスとレーナに殺されるわ!反省反省・・・


・・・オホンッ!とりあえずセバスの話を最後まで聞こう。


「セバス。では聞くが、お前は、この者の手足がなくなったのは何故だと考える?」

「おそらく、私が察するに一族の実験道具にされたのでしょう。片腕を無くした暗殺者はほぼガラクタ同然も一緒です。残った三つの手足は暗殺用の毒の開発実験にでも使われて、最終的に一族の手で切られてしまったのでしょう・・・」


なるほど、”暗殺者”稼業も大変なんだなぁ。


「そうか。それで奴隷商に売られたということか?」

「まあ、そうですね。流石に、その若さだと胴体への人体実験はあまり良いデータが取れないからです」

「セバス、それはつまり・・・お前もやったことがあるのか?」

「はい、それは、まあ・・・はい。ルイ様、ちなみにですが申し添えると、わが帝国では年に十数人は死刑囚が生まれますが、そのうち半数の者は実は”変死”です・・・」

「つまり、・・・そういうことか?」

「はい、そういうことです。ただ、しっかりと許可は頂いていますから・・・」

「そうか、そうだな。よく言ってくれた、セバス。要するに、我がブルボン家もしっかりと手を汚している、というわけだな?セバスよ、いろいろとお前には苦労をかけている・・・」


僕はセバスをねぎらった。まだまだ知らないことが、知らなきゃいけないことがあるな。


それにしても人体実験か・・・凄惨だな。

・・・まあ、「訳あり」だが、この秘密はセバスの弱味にもなるか?


う~ん、それから、そうだなぁ・・・よし、決めた。


「アルスよ、お前にこの奴隷の世話係を命じる!」


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