第154話 新たな商品
前回の章が短かったので、今回は少し長めです!
この国に来て早一ヶ月。
特に変わらない日々が続いた。
アルスとレーナは相変わらずコソコソと動いていて、僕は全校生徒から何故か痛い視線を受ける毎日。
セバスにグチグチ言われるから授業には一応出ているが、実技などめんどくさいところは雇った護衛のジョンとマイケルに全て任せている。
もちろん、校長と教育委員会の許可はしっかりと(金と弱みで)貰っているので何も文句は言われない。
周囲からは冷たい目で見られるが、そんなの知ったこっちゃない。
僕が良ければ全て良し!だ。
ところで、今、僕らはとあるバーに来ている。
あまり目立たない比較的小さめのバーだ。
中へ入るなり、僕はマスターに一通の招待状を見せた。
それを開いて一読したマスターは、「どうぞ、こちらへ」と店の奥に僕たちを手招いた。
それに従い、僕、アルス、レーナの順番で店の奥に入っていった。
奥へ通されると、マスターは何も無い地面に向かって魔法を詠唱し始める。
するとそこに、下へと続く階段が突如現れた。
「隠し通路で巧妙に隠しているんだな」
「ええ、バレると厄介なので・・・」
ニコニコして答えるマスター。
「下から出るにはどうすればいい?」
「同じように扉を開ける者がおります。その者に伝えれば開けてくれます。あるいは、ご自身で魔法を使用して開けることも可能です」
なるほど、作りは簡単なんだな。
「ご苦労」
「ありがとうございます。それでは、素晴らしい夜をお過ごしください」
僕らは階段を下りていった。
しばらく行くと、護衛とおぼしき人物が扉の前に立ちはだかっていた。
それに動じることなく、再び持っている招待状を渡す。
それをちらっと確認した護衛はおもむろに分厚い扉を開け始めた。
扉をくぐると、そこには公都にあったような大きな奴隷オークション会場が広がっていた。
この時、レーナは顔を青くしていたが気にせずに中へと入っていく。
僕たちははたから見れば子供三人にしか見えないので、場違いに思われているのか、周囲の大人たちは奇妙な目で見てくる。
招待状の差出人の奴隷商を探すためうろうろしていると、一人の大人がこちらへと向かってくる。
「おやおや、こんな場所に不相応の子供が紛れ込んでいるようですねー?」
クツクツと気持ち悪く笑う。
ずんぐりとした顔の醜い男。
如何にも奴隷を買いそうな奴だ。
「どいてくれ。僕はお前に構っている暇など無いんだ」
「そんな大口を叩いていいのかよ?この私を誰だか知った上での狼藉か?」
「殺すぞ、醜い奴が。お前のことなんて知らない。お前こそ、僕を誰だと思っているんだ?!」
本当にこの国の奴らは礼儀がなっていない。
目上の人に会ったら頭を下げると教わらなかったのだろうか?
周囲の奴らもニヤニヤとこの状況を見ている。
「何故、この私が―」
「あ、ルイ様!もう来られていたのですね!連絡下されば、お迎えに上がったのですが・・・」
醜い男が目を真っ赤にして何か言おうとしたところで、例の商人がこちらへと駆け寄ってくる。
「あれ、何かありましたか?」
白々しくトボける奴隷商。
「おい、そいつは誰なんだ奴隷商!この私の言葉を遮ってまでも呼ぶほどの奴なのか?!」
「な、な、何をおっしゃるのですか、アブライ殿!このお方は、かのフランシーダ帝国随一の大貴族、ブルボン公爵家の嫡男であられるルイ・デ・ブルボン様ですぞ!!」
奴隷商の紹介に周囲が騒然とする。
「な、ブルボン家の嫡男だと!」
やはり家柄が全てだ!
先程まで大口を叩いていた醜い男は、みるみる顔を青くする。
いい気味だ、いい気分だ!
「ところで、僕に何か用か?」
「ご・・・、ご無礼を働いてしまい申し訳ありません!!」
醜男は深々と頭を下げる。
それに特に答えず、そのまま歩き始める。
それよりも、僕の後ろを歩く差出人の奴隷商の方が腹に立つ。
あえて子供だけで会場を歩かせ、絡まれるように仕向ける。
相手が無礼な態度を取ったタイミングで、姿を現し、自分がブルボン家と取引していることを最大限に周囲にアピールする。商魂たくましい奴め。
「あくどいな、お前?」
「?は?何のことでしょうか?」
またも、すっとぼける。
その後は黙って奴隷商の後をついて行く。
階段を下りて、ステージの裏へと通される。
そしてとある部屋の前で待たされ、しばらくして中へと招き入れられた。
「こちらが、今回、ルイ様にご紹介したかった商品でございます!」
その姿は眉を一瞬顰めるものだった。
四肢の無い、猫耳の生えた少女。
「これは?」
「はい、こちらは愚かにもブルボン家に侵入して四肢を失った、元暗殺者で獣人族の少女でございます!」




