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第119話 帝立学園祭前日 (アルス視点)


「ふう〜〜やっと準備も終わりましたね」


そう言いながら長いため息をついた。


ここ一ヶ月の疲れが今になってどっと押し寄せてくる。


「アルス、本番は明日よ。そんなこと言っているようじゃ、まだまだね」


隣に座ってまだ何か作業をしているレーナが煽ってきたが、自分には言い返す気力も残ってない。


その代わりに目をつむり、ここ最近起きた出来事を静かに思い返していた。



まずは、何と言っても転移魔法についてだ。


ルイ兄様が突然やると言い出してから、四六時中、実験に付き合ってきた。


もちろん興味はあったから実験を目の前で見れるのは嬉しかった。


でもその間、父上に何度も怒られたり、実験を失敗する度にルイ兄様が不機嫌になったりで、まぁ色々あった。


実験に付随するそんな周辺のもろもろ全てを、自分とレーナで対処しなければならなかった。


しかも途中からはレーナもルイ兄様と一緒になって魔法実験に没頭し、その他の諸事を忘れることも多々あった!


でもそんな自分の苦労もルイ兄様の転移魔法成功で報われ、本当に良かった!



次に自分を苦しめたのは文化祭だ。


ルイ兄様の言動にもいつものように振り回された。


まだ初めの頃は、ルイ兄様があまり文化祭に乗り気じゃなかったので楽で良かった。


準備に向けてスムーズに進行できたし、特に問題も起きなかった。


巷で流行している最新スイーツをクラスのカフェで出す計画は、わくわくする気持ちと同時に不安もあった。でもそれは、何か新しいことにチャレンジする時には必ず隣り合わせの心地いい不安だった。(もちろん途中で、”レシピ強盗”みたいなことをしてしまった点に関しては、本当にお店に申し訳ない時思っている。だから今度、クラスのみんなとパンケーキをお店に食べに行きたいな)。


クラス全員でわいわいと学園祭の準備をする。


こういう時間が思い描いていた学園生活だ、と今さらながら思い出した。


ただそこで、ルイ兄様が学園祭売上一位を目指す、とか言わなければよかったのになぁ。


目指すことはいいと思う。一つの目標としては。


でも、まさか裏金まで使って本気でクラス資金を増やすとは考えてもみなかった。


そのため、当初立てていた計画は見直された。


合理的で効率的、かつ豪華にしよう、としたので、あらゆる面に計画の軌道修正は及んだ。


例えばお店の外観、テーブル、椅子、壁紙、室内照明、店員コスチューム、お花、絵画、銅像、噴水、看板…、使用するカップ、ソーサー、ケーキ皿、フォーク、スプーン類は、より豪華なものに新たに差し替えた。また、潤沢なクラス資金を使って個数や量など提供を増やすだけでなく、食材自体も少し高めのモノに変更したりした。


そんなわけで、途中から急に忙しくなった。


みんなも文句は言いながらも、なんだかんだ楽しそうに準備に励んでくれたのは有り難かった。


でも、自分は友達のように心から楽しむわけにもいかなかった。


常に金銭管理には頭を回していたし、調理やその他もろもろ世事に疎い貴族の同級生のサポートにも追われていたからだ。


プライドからか一部接待マナーを渋る貴族子女の説得や、第二皇子派からのあの手この手の妨害工作の阻止など、人知れぬ裏仕事もあった。


そう思い返すと、学園祭前日の今日まで、本当に怒涛の日々であったな。



自分はもう一度目を開ける。


「ルイ兄様はもう帰ったかな?」

「何言っているのよ?全校生徒、全員がもう帰っているわよ」


え、もうそんな時間?確かに窓の外は真っ暗で、何も見えない。


レーナと自分は、教室で室内装飾の最後の仕上げや微修正をした。


夕飯の時間はとうに過ぎていたが、不思議とお腹は空いていない。


「成功するといいなぁ〜〜〜」

「なに弱音吐いてるのよ!」


レーナがすかさず言う。


「いや、模擬店を出すなんて初めての経験だし、自分みたいな人間でも緊張するなあ、と」

「え?『自分みたいな人間でも』って、それどういう意味?」


レーナが真顔で尋ねる。


「いえいえ、何でもありません。自分みたいな料理も家事も接待も出来る人間でも明日は緊張するなぁと。それに比べると、以前は料理も家事も接待もできなかったレーナさんは緊張もしていないし、凄いなぁと」


少し元気を取り戻したせいか、嫌味も言えるようになった。


「はぁ”、それ言わないでよ!!!」


懐かしいなー。


学園に入学する前の日々が。


ルイ兄様に振り回されながらも色々な人たちと出会い、事件にも関わった。


面倒くさいと正直思うこともあったが、今にして思えば、とても充実した日々だった。


もちろん今も楽しい日々を過ごせているが、以前とはだいぶ異なる。


この学園、いや帝都に来て、自分の甘さや幼さを身にしみて感じている。


善意ばかりではない悪意渦巻くこの世界で、生きていくのがどれだけしんどいことなのか、いまさら理解する


そういうサバイバル術や処世術的な事柄に関しては、レーナの方が長けていた。


情報収集も対人交渉も探りも然り。


なので、自分はまだまだルイ兄様の役には立てていない。


「レーナ」

「ん、なに?」

「やっぱりやらないといけないのかな?」


唐突に質問した。


一瞬止まったレーナだったが、すぐに質問の意味を理解した。


「ええ、そうよ。しなければこっちがやられる。それに、あくまで取引だし」

「でも、それだと・・・」


自分の発言はルイ兄様を邪魔するものだと理解はしているので、その先は言えず口ごもってしまう。


「大丈夫よ、アルス!ルイ様は特に気にしていないと思うし」

「うん。まぁね」


その言葉には同意しかない。


レーナは立ち上がって帰り支度をし始めた。


明日は待ちに待った文化祭。


絶対成功させなければならない。



なぜなら、ルイ兄様の最後の行事になってしまうかもしれないのだから。


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