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Ⅱ 異端児の住むところ(2)


 そこまで考えてから、マテリアは怒りを向けている対象へ「大丈夫よ」といわんばかりに、可憐に微笑んで見せた。


「もう、怒ってませんわ。さぁ、こちらにいらっしゃって」


 さらに優しげな雰囲気を醸し出してみたが、相手は、その場で右往左往と動き回り一向にこちらの方へ来ようとしない。

 だが。


 しかし、マテリアはそんな彼の弱点を心得ていた。

 ベルは『神』を崇拝してやまない。


 その証拠にいつも、宝石装飾のついた大きな金のロザリオを首から下げている。


「まぁ、ベルってば、大変っ! もうじき朝食ですわよ。と、その前にお祈りをしないといけませんね。

 でも、ベルさんは来られないようですね、残念ですわ」


 大げさにため息をついて、マテリアは教会の入り口へと引き返すふりをする。


「ま、待って。無論、我が輩も参加するのであるよっ」


 案の定、ベルはへろへろとした動きで近づいて来た。

 マテリアは、そんな彼の持っていた黒い傘を強引に奪う。


「――ぎゃああ」


「なによ。死にやしないでしょ、お仕置きよ」


 「いや、死ぬ」と弱々しく呟いたベルの首根っこを掴んで、マテリアは入り口の扉を目指す。そこへ傘を立てかけると、彼を中へと放り込んだ。


「さて、どうしてやろうか」


 マテリアは不適に微笑むが、対象者であるベルが張り付いたような笑みである。


 そこでようやく、辺りが騒々しいことに気がついた。

 不穏な気配を感じて見回すと、他の修道女たちが哀みの表情を浮かべながらマテリアへと視線を投げかけている。


「マテリア」


 背後から凛とした声で名前を呼ばれてマテリアは肩を振るわせた。その静かな呼びかけから、圧のある殺気を感じる。

 おずおずと振り返ると、いつの間に現れたのか女司教が鬼の形相で微笑んでいた。


「マテリア、わたくしはずっと見ておりましたよ。ベルさんよりもあなたの素行が気になります。淑女らしく振る舞いなさいといつも言っているでしょう」


 義母でもある女司教の強い口調に、マテリアはうなだれて「言い返す言葉も御座いません」と肩を丸めた。


 日々、淑女らしくあろうとしているのに何かとベルに邪魔をされている気がする。


 元凶の方を睨んだが、彼は礼拝が気になるのか祝い事でプレゼントを貰う前の子供の如くそわそわと嬉しそうな表情を浮かべている。

 この男がいくら天然で世間知らずであっても、今だけは許したら負けな気がする。


 マテリアは静かに拳を握り締めた。

 



 朝食の時間が終わると、もうすぐ始まる『巡礼式』の準備に追われることとなった。


 それは年に一度、殉教者が各地の教会を巡って礼拝をする大切な儀礼だった。


 今年はシュティレ教会もその巡礼地の一つに指定されているため、礼具の準備や施設内外の清掃作業などで日々の平穏さが失われている。


 加えて、今年はなんと魔国の王が訪れるらしいという噂までが流れていて、教会内も混乱状態なのだった。


 この地域は聖王様が御わす首都『サナアト』に近く遠からずの場所にある。しかし、シュティレ教会はお世辞にも大きく、立派な施設という訳ではない。


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