Ⅱ 翡翠色の悪魔(5)
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奇妙な声が聞こえたような気がして、ミルヒはおずおずちょ言う。
「フォーゲル、お前」
「……」
「まさか、話せるんか?」
「ソウダ」
フォーゲルがのろりと口を動かすと、高いとも低いともいえない変な声が紡がれる。発音も不可解で妙であった。
「喋れるんかいっ!」
なぜもっと早く言わないのか、ミルヒはその場にガクリと膝をついた。
フォーゲルを見上げると、いつもどおりどこか遠くを見つめている。相変わらず無表情でぼーっとしている。
もしかして、話せないんじゃなくて面倒くさくて話してなかっただけなのかも知れない。
フォーゲルは一体『何』で、どこから来て、何故この街へ落ちたのか。それは分からないじゃなくて、まだ知らないだけなんだな、とミルヒは思った。
それならこれから知っていけばいい。無口だけど、ちゃんと話もできるようになった。
あはははと笑い声を上げると、フォーゲルが「何故笑ったのか」というような視線を送ってきた。
静寂な通りにミルヒの笑声だけが響く。彼はまた静かに目を閉じた。
そんな二人に日は赤い色を落としていた。もう夕暮れである。
小屋へ近づくと、フォーゲルがミルヒの腕を掴んだ。彼を見るといつも眠たげに開いているその瞳が見開かれて、ギラギラと輝いている。
「イル」
それだけ呟いて、フォーゲルは小屋の方を睨みつけた。子供たちに何かあったのかと、ミルヒは激しい不安に襲われた。
フォーゲルの手を振り払って小屋の扉を開けると、いつも騒がしい子供たちの姿が一人も見えない。
「誰も、いないのか?」
暗がりで、何かがごそごそと動いている。窓から射す夕日でその人影が延びていた。
「お前、何やって……」
ミルヒはそこで言葉を失ってしまった。
それは人の指をくわえていたのである。口元は赤く薄汚れていて、二つの瞳が怪しく輝く。ミルヒが叫ぶ前にそれが動いた。
「なっ!?」
その瞬間、眼前に美しい翡翠の瞳が見えたかと思うとミルヒの視界は一回転をした。何が起こったのか分からないまま、気づくと外でフォーゲルに抱き上げられている。
「なんっ」
言い終える前にまた視界が歪んだ。と思ったら体に重い衝撃が走って、顎を思いっきり強打する。
鼻に土臭さを感じると、それが地面だと理解した。どうやら放り投げられたらしい。
状況が読み取れないまま、「痛てて」と起きあがる。
そこでは、フォーゲルが何者かと対峙していた。軽い男の声が響く。




