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第3話 アシュリーと仲間達

 反乱の狼煙として、最初に王都を狙う作戦は私が立てた。

 警備の厳しい王都なので、反乱軍の幹部達から随分反対を受けたが、私は強硬に主張を曲げなかった。


 ギラム王国の非道に不満を持つ人間は世界に大勢居る。

 それらの人々に対し、蜂起の狼煙を上げるには敵の本丸である王都からだと説得した。


 私の主張は支持を集め、遂に作戦は実行されたのだ...


「アシュリー様」


「みんな解放した?」


「はい、娼婦全員の解放に成功しました」


「そう...良かった」


 共に娼館へ突入した仲間の言葉に頷いた。


「アレックス様は?」


「大丈夫よ、ほら」


 背中に背負っていたアレックス様を仲間に見せる。

 煙に巻かれたアレックス様は気を失っているが、呼吸はしっかりしており、命に別状は無い。

 彼の身体から伝わる命の鼓動が愛おしかった。


「良かった...」


「ああ...アレックス様」


 仲間の目に涙が浮かぶ。

 彼女達はみんなアレックス様によって命を救われた元娼婦。

 地獄の時間を支えあった仲間なのだ。


「娼館の関係者は?」


「...男共の処分は終了しました」


「全身を切り刻みましたので、もう長くは持たないでしょう」


「ご苦労さま...」


 ここの奴等には随分と可愛がって貰ったから。

 無理矢理客を取らされ、それ以外にも日常的に犯された恨みを思えば、まだ飽きたら無い。


「引き上げるわよ」


「はい!」


 作戦の主目的である娼館の襲撃は成功した、これ以上の長居は不要だ。

 早く王都を脱出しないと、態勢を建て直した王国兵が反撃に転じるだろう。


 なにより、カリーナ達勇者パーティーが加わってしまったら、私達は忽ち全滅してしまう。

 一刻の猶予も許されなかった。


「...みんな良い?」


 決めていた場所で別動隊と落ち合う。

 仲間の損害は少ない、全て上手く行った!

 事前に用意していた馬に跨がり、王都を脱出する。

 混乱に乗じ、私達は無事逃げる事に成功した。


 一晩を掛け、馬を駆り続ける。

 夜明け前に国境を抜け、近くの街に私達は身を寄せた。

 ここには私達の拠点の一つがある。

 街の人間は全員反ギラム王国で占めている、奴等も簡単に手出し出来まい。


「よくぞご無事で」


 アジトに着くと待機していた幹部が私を迎える。

 ようやくホッとする事が出来た。


「アレックス様は?」


 脱出の際、仲間に託したアレックス様が気になる。

 安全を考え、一番に逃がしたのだ。


「よくお眠りです、今は奥の部屋に」


「そう...」


 報告に仲間も安堵が広がる。

 今回の作戦はギラム王国に降す正義の天誅、その序章に過ぎない。


「次の作戦よ、みんな集めて」


「少し休まれては...」


「そんな時間は無い」


 時間が無いのだ。

 弱体化が進んでいるとはいえ、ギラム王国はまだまだ強大。

 この流れで一気に攻めないと、単なる反乱で終わってしまう。


「...畏まりました」


 私の強い言葉に仲間達が招集された。

 話し合いは深夜に及び、今後の対策が練られて行く。


「...さて」


 仲間が出ていき、私はアレックス様の休まれている部屋に向かう。

 そろそろ目を覚まされた頃だろう。


「アレックス様はどうかしら?」


「アシュリー様、アレックス様はまだお休みです」


「...そうか」


 部屋にはアレックスを見守る仲間達。

 みんな愛おしい目で彼を見詰めていた。


「随分無理をさせて...ごめんね」


 アレックス様の眠るベッド脇に置かれた椅子に座り、その髪をそっと掻き上げた。


「...救出した娼婦(仲間)の証言ですが、この連日、恐ろしい程の精を吐き出される事を強要されていたそうです」


「...なんだと?」


「話によれば貴族の婦人や富豪の妻、十数人と...」


「...なんて事を」


 許しがたい所業。

 アレックス様の身を何と考えている?

 腎虚になったらどうしてくれるんだ。


「落ち着いて下さい、アレックス様にはスキルが」


「そうだったな...」


 アレックス様の授かったスキル。

 それは神の奇跡だが、同時にギラム王国が行った悪魔の所業の成果でもあった。


「...ギラムめ」


 ギラム王国は神託を自分達の良いようにねじ曲げ、国の都合で勇者や賢者を作り出していた。


 どんな秘技を用いたか分からない。

 その秘密を探る為、各国から集まった仲間達は四年前にギラム王国へ留学生として潜入し、捕まってしまったのだった。


 連行されたのが、あの娼館だった。

 裁こうにも証拠が見つからないので、ギラムは私達を戦争捕虜とでっちあげ、無理矢理娼婦にさせた。


 私達の居た娼館の娼婦は全て訳あり。

 密偵の疑いがある者や、仲間に売られた冒険者、自らの不義を隠す為、罪をでっちあげられた貴族の妻も居た。


 厳重な監視、客と会話さえ許されない。

 劣悪な環境、仲間達は次々と性病と飢えで廃棄されていった。


「あなたは救世主よ...」


 アレックス様によって救われた私達は王都を脱出し、それぞれの母国に戻った。

 そしてギラム王国を倒す為、各国は立ち上がったのだ。


「カリーナ達の協力が得られたらギラムは終わる」


「分かってる、でも最後まで見極めないと」


「そうですね」


 カリーナ達がギラムに不審を抱いているのは間違いない。

 こちらに側に彼女達が着いてくれたなら勝利は確実だが、まだ安心は出来ない。


 彼女達の神託はギラム王国が操作した物。

 どんな想定外が起きるか予想出来ない。


「アレックス...やっと会えましたね」


 本当は貴方を失いたくは無い、

 勇者パーティーの面々がお忍びで娼館に来ていたのは知っていた。

 あれだけの有名人だ、変装していても分かってしまう。


 ...そう、彼女達の目に隠し切れない恋慕の情が滲んでいたのも。


(アレックス、貴方の本当の名前は?)

(どんな人生を歩んで来たの?)


 聞きたい事は山程あるが、知ってしまったら、恐ろしい結果になるだろう。

 この奇跡はギラムによる神託儀式による副産物に違いない。


 このスキルを世界に知られたら、争乱の元だとアレックス様は殺されてしまうだろう。


「...カリーナ、貴女達に」


 そんな事は絶対にさせられない。

 私達はアレックス様をカリーナ達に託す事を決めた。


「今は...私達を」


 仲間とアレックス様を抱き締めた。


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