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第2話 男娼アレックス

「やっぱり勇者様達は凄いな」


 国が営む娼館。

 自室に差し入れられた新聞から勇者パーティーが辺境を襲った魔獣の群れを退治した記事を読む。


「王国兵と力を合わせ、勇者パーティーは魔獣を殲滅させた...か」


 近い内にカリーナ達はここに来てくれる、その時はおもてなしを頑張らないと。


「よし!」


 鏡に自分の姿を映す、健康そうだ。


「僕も勇者達と一緒に戦えたらな」


 そうすればここを出ていけるのに。

 自由に旅をして、カリーナ達と世界を回って...


「無理だよね」


 僕に戦う力は無い。

 身体は女性より小さくて、顔だって女の子みたいだし。

 スキルだって戦闘には全く不向きの物しかない。


「僕は何者なの?」


 僕の記憶は5年前からしかない。

 以前の僕はどんな人間で、どんな風に暮らしていたか覚えていない。

 ただ気がついたら、ここの娼館に倒れていた。


 ここには本来男娼は居ない。

 実際男娼は僕だけで、他はみんな娼婦。

 倒れていた僕は身元不明の人間として、そのまま娼館の下働きになった。


 娼館の掃除に始まり、個室の掃除、料理の配膳等、する事は一杯あった。

 仕事はキツかったが、充実していた。

 娼婦はみんな僕に宜しくしてくれたから。


「しかし、僕がまさか男娼になるなんて...」


 ある日、僕は貴族の婦人に指名された。

 どうも僕の容姿は女性に好まれる様で、婦人は狂った様に僕を抱いた。

 以来、僕は仕事の合間に男娼として働いている。


「女の人を満足させるスキルか...」


 よく分からないが、僕には女性を満足させる能力があるらく、噂は噂を呼び、客層は多岐に及び出した。


 貴族の婦人、大富豪の奥方、その娘、そして女冒険者達。


 特に冒険者のお姉さんはみんな良くしてくれた。

 なんでも庇護欲を(そそ)られるらしい。


「だからカリーナ達と会えた」


 最初にカリーナが来たのは三年前、あの時はビックリした。

 噂に名高い勇者カリーナだったが、酷い薬物中毒で、身体も滅茶苦茶に使い古されていた。


『さあ...早く、噂を聞いたのよ』

 虚ろな瞳でベッドに身体を投げ出す姿は老婆の様だった。


『噂ですか?』


『そうよ、貴方が逃がした元娼婦からね....命を助けたら教えてくれたの』


『そうですか...秘密だったんですけど』

 僕の秘密とは下働きの頃、病気で働けなくなった一人の娼婦の看病をしていた時に発現した治癒スキル。


 身体中の斑点が消え、爛れていた性器は全て元に戻っていた。

 手の施し様も無い手遅れの状態だったのに。

 驚く娼婦に僕は毛布を被せ、台車に乗せた。


『良いですか、貴女は明日廃棄予定だったのです。

 僕は貴女が今日死んだ事にして、捨てに行きます。

 捨てられたら、直ぐに逃げて下さい』

 僕の言葉に娼婦は泣いた、声を忍ばせ何度も頷いた。


 いくら国が運営している娼館といっても劣悪なのは変わらない。

 娼婦は死ぬか、誰かに身請けされない限り出る事は叶わない。


 なけなしの金を握らせ、僕は無事娼婦を逃がした。

 以来、数人の娼婦を逃がしたが、幸いにもバレなかった。


 末期の性病娼婦が助かるなんて、誰も想像出来ないからバレないのは当然だと思っていたのだけど。


『いきますよ』


『...ええ....あああ!』

 不審な目をしたカリーナの身体中に手を這わせる。

 引き千切られていた胸の先や、爛れていた下半身が綺麗に戻っていく。

 勇者に対しても有効だった。


『次は薬を抜きます』


『...うん』

 もうカリーナの目に不安は無かった。

 身体から汗が大量に流れ出し、青白かった肌に血の気が満ちて行った。


『今回はこれまでです』

 身体の損傷と、薬物は一度で取りきれなかった。


『ありがとう...次は仲間を連れて来て良い?』


『モチです、お待ちしておりますよ』

 満足したカリーナは料金以外にチップをまで握らせてくれた。

 こうして次に賢者アンナ、そして大魔術師マリアがやって来た。


 その間、僕は一度もカリーナ達を抱いたりしていなかった。


『どうしてなの?』

 何度かカリーナ達に聞かれた。


『その時になれば』

 そう答えたが、本当は畏れ多くて、そんな気持ちになれなかった。


 最後に来たのは半年前だった。

 思い詰めた表情で三人は僕にある事を頼んで来たのだ。


『本当にいいんですね?』


『お願い...』


『...待ってた』


『...これでやっと私達は』


 裸の三人は頷いた。

 その時にはみんな美しい身体を完全に取り戻しており、それ以上の治癒は必要ない程綺麗に治っていた。


『行きます!Hymen (処女膜)Repair(再生)!』


 これは最も秘密にしていた魔法。


 隣国との戦争で捕虜になり、娼婦にされた貴族令嬢アシュリーを逃がす際に覚えたのだ。

 単に逃がしても、穢れされた彼女は元の境遇に戻れない。

 優しくしてくれたアシュリーへの恩返し、餞別だった。


『グアアァ!!』


『クゥゥン!』


『ハァァァン...』

 激しく身を捩る三人。

 アシュリーが言っていたが、下腹部に凄まじい感覚が走るそうだ。


『よし...』


『これで?』


『...私は』


『戻れたのですか?』


『は...はい、穢れなき乙女(処女)に』


『あぁ!!』


『...まさか...奇跡』


『本当に...貴方こそ救世主よ』


『いいえ、世界を救った貴女達こそが真の救世主です』

 きっとカリーナ達に最愛の男性が出来たのだろう。

 過去を忘れたい彼女達の気持ちに応える事が出来たのだ。


『次に来たら...アレックス...』


『...うん、頼む』


『お願いしますね』


『はい!』

 きっと結婚の報告でもするつもりだろう。

 奴隷の俺は出席出来ないが、心からの祝福を約束した。


「なんだ?」


 轟音と共に屋敷が大きく揺れる。

 小さな窓から外を見ると、街のあちこちで火柱が上がっていた。


「反乱だ!」


「逃げろ!!」


 兵士達の怒号か聞こえる。

 遂に始まったのだ、そんな前兆はあった。

 娼館に煙が立ち込め、焦げ臭い臭いが部屋に充満する。

 どうやら反乱兵は街に火を放っているのか。


「開かない...」


 逃げようにも扉に鍵が掛かっている。

 こんな時くらい開けてくれてもいいのに...


(まあいいか...)

 咳き込みながらゆっくりベッドに寝そべる。

 どうせ大した価値の無い命だ。

 記憶も5年前から先は無いし。


「アレックス!!」


 部屋の扉が蹴破られ、一人の兵士が飛び込んで来る。


(...誰?)

 声を出そうにも、煙で喉が潰れ話す事が出来ない。


「アシュリーです...ああ良かった!」


 激しく僕を抱き締めるアシュリー、涙に濡れた彼女の頬。

 その感触を感じながら僕は意識を失って行った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 途中に不穏な名前が…… アレックスがリョージ?それとも…… [一言] 新作ありがとうございます。 久々の「アレックス」登場ですね。 今回は果たしてハッピーエンドかバッドエンドか…… …
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