続く旅路
偽りの勇者とその従者の二人旅。
彼らの道中には会話がほとんどない。
普通このような人里離れた荒野は強力な魔物たちの縄張りであり、生物的に弱者である人間はすぐに襲われてその儚い命を散らしてしまう。
しかし彼らの道中を邪魔したのは、荒野に入る手前の草原で遭遇した狼族の盗賊たちだけだった。
ある一定の強さを持つ魔獣は、敵わない相手には挑もうとしない。
それは魔獣が高い知能を有する証拠の一つとも言えるだろう。時に獣は人間よりも賢い。
それでも襲ってくるのは、彼我の戦力差すら判断できない知能の低い魔獣か、先ほど言ったような人間世界から追放された盗賊崩れがほとんどである。
勇者と従者、この二人の旅路の障害になるような邪悪で強大な敵などは、存在すら怪しまれているほどである。
しかしそうした存在も、先代の勇者の死によって皮肉にも証明されてしまったが。
「がぁぁらぁ!!」
従者殿のモーニングスターの渾身の一撃によって、最後に残っていた哀れな小鬼のリーダーは、その命をことごとく散らした。
その一撃の威力はすさまじく衝撃とともに、謎の液体が見守っている俺にまで届くほどだった。
戦闘を終え、残心を解いた彼女は、小鬼の血液や体液やらで、体中がなかなか悲惨なことになっている。
俺はうんざりしながら、謎の液体を振り払い無言で手のひらから大きな水の玉を生み出し、彼女の頭の上で破裂させた。
「着替えたらどうだ、すごい匂いだぞ」
「うるさい!それよりあんたちゃんと戦いなさいよ!なんで毎回毎回私が全部相手にしてんのよ!」
彼女の怒りのこもった声が荒野に響き渡る。
事実俺は今回の戦闘に直接参加していない。
俺が今回戦闘に関して行ったことは、敵の発見と誘導。あとは戦闘中の周囲の警戒ぐらいだ。
彼女に戦っていないとみなされても仕方のないことだった。
「いくぞ、近くに洞窟があったはずだ、今日はそこで野営だ」
俺は肩をすくませ、そう言った。彼女の抗議に取り合わなかったにも関わらず、彼女は直前までの怒りの矛を収めて、しぶしぶ付いてきた。
彼女も理解してはいるのだ、俺が戦わない理由を。こうした問答はこれまで何度も交わしてきた。頭ではわかっていても、心ではまだ消化しきれていないこともあるのだろう。それを俺に文句を言うことで少しでも吐き出せているのならば、俺はそれでいいと思っている。
なぜなら彼女と俺との間にある溝を深めた原因は、こちらにあるのだから。
また俺は彼女を教導する責任がある。
俺と彼女の関係は勇者と従者であり、また同じ師をもつ兄弟弟子なのだから。