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勇者はもういない
寸刻前までの土砂降りが嘘のように、目の前に広がる大空は澄み切っていて雲一つない。
雨風によって冷えた肉体が、雨上がりの日差しによって息を吹き返す。この荒野でたくましく生きる草花に滴る水滴はこの世のすべてを映し出す。
俺たちパーティーには問題が山積みで、心も体もボロボロだ。
こんな時ぐらい喪失感に浸っていたいというのに。このくそったれな世界は、まるで俺たちを祝福するかのようにその表情を移ろわせていく。
何はともあれ、
勇者は死んでしまった、
勇者はもういないのだ。
第1章「勇者はもういない」プロローグ完