6.解釈と森の奥
西門を出てからずっと見えていた森にマイルドは踏み入った。
澄んだ空気が気持ちいい。
木漏れ日を浴びて、雫はぐぅっと背伸びをした。
小鳥のさえずりすら聞こえてこない無音の森。
ここは、プレイヤー達の間で"静森"と呼ばれるフィールドだ。
初めは必ず拠点であるホームからの移動になる"CROSS×DECIPHER"の性質上、
このフィールドへは四分の一の確率で訪れることになる。
正確に言えば北に広がる荒野と南に広がる岩石地帯を繋ぐような構造となっているため、
訪れる確率はそれよりも高いだろう。
「だれもいない、、のかな、、? 」
静まり返る辺りの様子に少し落ち着かない様子のマイルド。
そこに一匹のテントウムシが現れた。
「きゅぴぃ」
現実では鳴かないテントウムシの鳴き声が、森の静寂を破る。
色合いも白がメインの背中に赤の斑点があり珍しい生体だ。
「か、かわいい、、!!」
いきなりの登場とその可愛さに不意を突かれ、マイルドの心が大きく動く。
「鉄棒!」
鉄棒を取り出した。
「ほらほら~先っぽまで登っておいで~」」
そして、テントウムシと遊び始めた。
鉄棒をこんな使い方しているのはマイルドだけだろう。
「きゅっきゅうっ」
テントウムシもたのしそうにみえる。
すっかりマイルドに懐いているようだ。
マイルドも夢中になって遊んでいる。
「そうだ! 鳴くテントウムシ、、"カード"で取り込めるのかな、? 」
「きゅうぴぃ」
可愛いものとは近くにいたい。
そんな想いから至ったマイルドにとっては自然な発想。
頷くようにテントウムシも鳴き声をあげる。
しかし、マイルドは知らなかった。
"静森"という最序盤のフィールドで貴重な"カード"を使うということの禁忌さを。
他のプレイヤーが目撃したら間違いなく発狂するだろうことを。
「カード!」
マイルドはインベントリから"カード"を取り出す。
「あの可愛くて、なき虫で、見たことない色してるテントウムシさんを"友達"にしてくださいっっ」
"カード"がマイルドの声に反応し光始める。
「あ、ともだちって言っちゃったわたし今っ、。ちゃんと切り取れるのかな?大丈夫かな、、」
深く考えずに発した先程の言葉を思い返し一気に不安になるマイルド。
そんなことお構いなく"カード"は眩い光を真っ直ぐに放ち、テントウムシを包み込む。
「きゅきゅうぅ」
心地よさそうなテントウムシの声。
やがて光が消え、テントウムシもその姿を消した。
「消えちゃった。。"カード"にはいってる、、よね、、? 」
ゆっくりと"カード"を反転させる。
そこには、白いからだに赤い斑点と愛らしい顔を浮かべたテントウムシがいた。
「やったぁ!!初"カード"!これって成功ってことだよね!」
"静森"のなかで飛び跳ねて喜ぶマイルド。
""ピコン""
""テントウムシを切り取りました""
""解釈を確認しました""
""未知との友好""
""解釈を確認しました""
""静寂を破る者""
""解釈を確認しました""
""常識破り""
.......
初"カード"を使ったマイルドは
興奮と"静森"に鳴り止まない通知への困惑から
しばらくその場を動けないでいたのだった。
次回、効果について説明入ります。