2.解釈とプレイヤー名
「んー--、、、どうしよっかなぁ」
ダンと別れた後、雫はその場に立ったままで、何やら首を傾げていた。
プレイヤー名が決まらないのだ。
通常のゲームなら、ログインして最初にすることが、プレイヤー名の登録だろう。
しかし、"CROSS×DECIPHER"は違った。
プレイヤーとの仮想空間の共有という、
ある意味でひとつの共同体としての性質を有することから、
各プレイヤーの行動の痕跡は、他プレイヤーにも認識され追跡されうるのだ。
そのため、名前やプロフィールが無くとも、
ひとまずはそこにいるだけで存在の証明が出来てしまう。
この世界でのプレイヤー名の役割は、
よりリアルな自らのプレイヤー像を周りに伝えること、
そしてまた自らの没入感を増すことが大きな部分を占めるだろう。
ただ、雫は純粋にプレイヤー名というものに頭を悩ませていた。
かわいくて、自分らしくて、それでいてなによりプレイしていて楽しい名前。
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「しずく―!なにやってんのー?」
高校生活2年目にして最愛の親友である"ゆき"の声がしたので、雫は顔を上げた。
「これー?色塗りしてるんだー。
だってほら、この教科書とか白黒なとこばっかりでつまんないんだもん。」
「色塗り、、?わざわざ色鉛筆を学校に持ってきてんの。」
"ゆき"は雫のこういう少し変わったところにも興味を抱いてくれる。
「うんそうだよー!
これとか凄いんだよ~、自信作。元々はただの開いた本なんだけどね、
そこから色んな物が飛び出してるみたいに塗ってみたの。」
見えないところを想像する。
余白の使い方が上手いと"ゆき"は雫のことを冷静に分析し感心していた。
「ところでさー、明日からテストだけど、だいじょうぶそう?」
周りの生徒も雫と同じように座っている人は多いが、
そこで集中しているのは皆そろって勉強だった。
「あっっ、、そっか!まずいよどうしよう!テスト用紙に色塗ったら加点とかないよね、」
「やっぱり、、。テストに芸術点ないから。
勉強じゃなそさうだと思ってきてみたら、まさか色塗りとはね。」
「待って、べんきょうする、あ、でもやっぱここちゃんと塗り終えてから!」
あくまでも色塗りを途中で放棄することのない雫の"らしさ"に、"ゆき"の微笑みが零れた。
「雫ってなんていうか、まいぺーす、いや、ちょっとちがうな、、なんだろう、マイルドだよねっ」
「マイルド?ひとをココアみたいに言ってるよ。」
「だってー、周りみんなテスト前でピリついてるのにさ、
雫と話してたらなんだか大丈夫な気がしてくるんだもん。」
「だ、大丈夫じゃないよっ!明日の科目ってなんだったっけ?」
「んー-、たしか、、、、」
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少し前にあった親友の"ゆき"との学校でのやりとりを思い出していた。
「マイルド」、、ココアみたいとは言ったが、なんだかかわいくて、自分らしい気がする。
それに"ゆき"の顔も思い浮かぶから、プレイしているだけで楽しくなれそうだ。
決めた!「マイルド」にしよう!
良いプレイヤー名を思い付いたと内心で"ゆき"に感謝しながら、
これは内心に留められなかったニヤニヤを溢しながら、
透明なディスプレイの左上にあるプレイヤー名の欄を操作して、「マイルド」と入力した。
""- Welcome to "CROSS×DECIPHER" -””
そう歓迎の文字が画面に映し出された。
ここから"CROSS×DECIPHER"の世界が始まるのだと、"マイルド"は武者振るいをした。
あれ、、冒険って、、地図とかなにもないんだけどっ。
インベントリを探るんだ「マイルド」!