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1.解釈と勘違い

 少しの静寂と暗闇に包まれた後、視界が眩しくなり、雫は思わず目を閉じた。


 転移が完了したのだろうか。


 恐る恐る目を開けるとそこには、

 現代的な高層ビルと中世風の戸建が景観よく入り混じった、

 非現実と言って相応しい美しい街並みが広がっていた。


 照り付ける太陽の光を反射させている鋼壁と、

 そこに色味を揃えた石壁が鮮やかなグラデーションになっている。


 石造りの家屋にお似合いな金属製のドアに寄せた高層ビルのエントランスや窓は、

 街並みの一体感を象徴しており、職人の試行錯誤が窺える。


 吹き抜ける風は都会的でありノスタルジックであり、

 高揚感が身体を駆け巡るこの瞬間において、

 これ以上ない程に適切な心地よさをもたらしてくれている。



 それでもまだ現実の感覚が抜けきらない雫の感覚を、街を行き交う人々の姿が拭い払う。

 鎧武者のような重厚な甲冑を身に纏う大男、聖女の如き純白のローブに包まれる女性、野山から降り立った勇猛で無知な部族にしか見えない野性味あふれる恰好の青年など、ゲームだから成立する身ぐるみばかりだ。


 自分の服装はどうなっているのかと下を向いて確認すると、

 いかにも初期装備といった淡白な衣装であった。


 まぁ、そんなもんだよね。


 いや、ちょっと待って。

 雫の思考が一瞬止まった。

 "CROSS×DECIPHER"ってカードゲームなんじゃないの??


 周りの人達の恰好は、どう見ても戦う側のそれなのだ。

 ふつうカードバトルをするならあんな華美な恰好はしない。

 何しろお金がかかりそうなのだ。

 それくらいならカードにお金をつぎ込んだ方が戦略的であることくらいは雫にもわかっていた。


 雫は勇気を出して、もう一度こちらへ歩いてきている先程の甲冑の男に声を掛けた。


「あの、すみません。その、わたし、はじめたばかりで。えっと、、お聞きしたいことがあって、、。ど、どうしてカードバトルなのに、みなさんそんなに豪華な衣装を、身に付けているんですか??」


 いきなりのことで甲冑の男は少しの間おどろいている様子だったが、

 すぐに雫に意識を向けて、それから豪快な笑い声を響かせながら話し始めた。


「がっはっははは、そうかそうか、そりゃあそう思うよな。俺だって数か月前まではそう思ってたってもんだ。なにせ外には情報が出回ってないんだもんな。」


 "CROSS×DECIPHER"の情報はその特性ゆえに外部には限定的なのだ。


「"CROSS×DECIPHER"ってのはな、

 超絶リアルに構築された世界の事象を"カード"と呼ばれるアイテムで切り取って、

 唯一無二の世界を自らのものにするバトル冒険ゲームなんだ。

 分かりやすく言うと、この世界ぜんぶ、何でも、どんなヘンテコなもんでも、

 "カード"にできちまうってわけだ。

 もちろん、その"カード"に切り取った効果で、冒険を進めていくんだ。

 戦わなきゃならねぇモンスターもエリアによっちゃあそれなりにいるからな、

 そのためのこの甲冑ってわけだ。」


 雫が"CROSS×DECIPHER"の"現環境"について何も知り得なかったのは当然と言えるのだが、

 それでもあまりの勘違いに、耳を赤く染めずにはいられなかった。


「ほんとうに何も知らなかったので、その、ありがとうございます!

 色々と聞きたいことはまだあるんですけど、、それはこれからの楽しみってことにします!」


 ホッとしたような雫の笑顔につられるように、甲冑の男も表情を緩める。


「あぁ、それがいい。またどこかであったら気軽に話しかけてきてくれ。

 俺はダンってプレイヤー名でやってる。よろしく頼んだぜ。」


 話しかけた人がダンでよかった。

 雫はそう思いながら、お互いに丁寧な会釈を交わした。

 それからダンの背中にしばし視線をやって、その大きな影を見送った。


「"カード"で世界を切り取るかぁ、、楽しそうっっ!

 私だけの"カード"、つくっちゃうもんね!」


 ダンの説明を思い返しながら、そう意気込んだ。


「そういえば、私の名前はダンさんに教えてないや。プレイヤー名、、どうしようか。」


 正面に表示されている透明なディスプレイの右上にある"フレンド"の欄に申請が来ているダンの文字と、左上に表示されている"anonymous"の文字を交互に見つめながら、そんなことを考える雫であった。





しれっとフレンド申請しているダン。。憎めないですね。。笑

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