プロローグ
はじめまして、儚凛紺と言います。
処女作にして、正直勢いです。
温かい目で見守ることも忘れて、
これから描く"CROSS×DECIPHER"の世界に没頭して頂けたならば嬉しい限りです。
私は雫ちゃんの活躍を早く書きたくてうずうずしています!笑
*ひとまずは毎日投稿でいきたいと思います。
ご都合主義も多かろうと思いますが、よろしくお願い致します。
感想コメント等どうぞ気軽に書いてくださいませ!
嬉しいことがあった日は、
鼻歌を唄いながらスキップをしたりするものである。
目の前から人が歩いて来ようとも、
後ろから自転車に追い抜かれようとも、
心の内から沸き上がるワクワクを抑えることなど出来はしないのだ。
この蓮華雫のように。
「ふっふんふふ~ん、ふっふんふん~」
見るからにルンルンである。
河川敷を吹き抜ける夕風に乗って、雫は軽やかに帰宅していた。
肩の辺りで綺麗に切り揃えられた黒髪を、サラリと揺らしながら。
いったい何があったというのだろうか。
答えは明白である。
「ほんっとうに嬉しい!
まさかこんなに良いタイミングで"CROSS×DECIPHER"にログインできるだなんて」
"CROSS×DECIPHER"とは、
趣味や個性が多様化する21世紀も中盤において、
彗星の如く現れ瞬く間に大ヒットを記録した仮想現実バトルアドベンチャーゲームである。
もはや不可能とさえ言われていた現代社会の興味の一極集中を容易くやりのけ、
今なおその勢いは衰えるところを知らない、伝説にして怪物級のコンテンツなのだ。
なぜそこまでにあらゆる人々を惹きつけられたのか。
そこには2つの理由がある。"限定"と"可能性"である。
雄大な自由世界に入り込めるプレイヤーの数は有限なのだ。
正確に言えば、
"CROSS×DECIPHER"におけるキーアイテムとも言える"カード"の存在が有限なのだ。
したがって、このゲームはその"カード"がある限り思うままに遊ぶことが出来るが、
逆を言えば"カード"が無くなればそれ以上は
どのプレイヤーも遊ぶことが出来なくなってしまうのだ。
つまり、ある意味では早い者勝ちなのである。
そしてその特性ゆえに、この"CROSS×DECIPHER"自体の情報もまた外部には限定されている。
限られたプレイヤーが限られたリソースを獲り尽くしてしまわないように、
互いに牽制をし合った結果と言える。
もちろんそこには運営の配慮と努力もあることだろうが。。
何はともあれ、これこそが"CROSS×DECIPHER"の1つ目の魅力、"限定"である。
そしてその秘密のベールが、
未だプレイしていない人々にとっては魅力的に映る。
我先にと"CROSS×DECIPHER"の世界へのログインを望む事実があった。
その意味で言うと、ログインできると大喜びしている雫すらも
本当のところは"CROSS×DECIPHER"がどういったゲームなのかは詳しく知らないのである。
ただ超絶リアルなオープンワールドで行うカードバトルという情報を知るのみである。
そしてこの一旦ログインしてしまえばどこまでも広がる仮想現実の自由さが、
多くのプレイヤーの豊かな想像を掻き立てているのである。
しかし、本当に人々が興味を抱いているのは、
"CROSS×DECIPHER"での実績や成果がそのまま現実でも同じ価値を有するという点である。
従来のゲームはオンライン・オフライン問わずその世界はある意味で隔絶し、
その世界の中で完結していた。
それが有限な"カード"によって構築される"CROSS×DECIPHER"においては、
自らの実績や成果はそのまま現実世界での希少性に繋がるのである。
この希少性は、増すことはあれど減ることはない。
秘密のベールから見え隠れするそのあまりにも魅力的な特性が、
"CROSS×DECIPHER"に果てしない"可能性"を感じさせているのである。
雫はそんなことよりも超絶リアルなオープンワールドという部分に興味を抱いているが、
多くのプレイヤーは違う。
一攫千金を狙って日夜ログインを夢見ては、
来るべき日に向けてその攻略法を緻密に画策しているのである。
「あ~たのしみ!この装置を付属させて、、ログインコードを打ち込んで、、、」
雫はさっそく準備を始める。
「できた!どうしよう!ドキドキがとまらないよ!!」
興奮して抑えられない心の声をそのまま口に出しながら、
雫は"CROSS×DECIPHER"への転送を待った。
少しの静寂の後に、雫の視界は真っ暗となった。
"CROSS×DECIPHER"への転送が始まったのだ。