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僕は再びため息をつく。いったい、何をどう考えたらそんな話題になるというのだろう。
「唐突だね。何、君は僕がドッキリ番組みたいなリアクションをするとでも思ってるの?」
「そんなわけないじゃん。【 】くんだし」
きょとんとしたトーンで彼女はそう言った。もしかして、僕と同じ「ドS」というやつなのだろうか。
「今日話すようになったばかりの浅い関係だっていうのに、君はためらいなく会話に毒を混ぜてくるね」
「えへへ」
「褒めてないから」
僕のペースになって話題がうやむやになるのを察したのだろう。「とにかく」と彼女は仕切り直した。
「誰かに聞いてほしくてたまらないの。だから聞いてよ」
「はいはい」
適当に相槌をうっただけのつもりだったのだが、彼女はそれを僕の肯定と受け取ったらしく、にっこりと満足そうに笑う。すると、彼女はまた二、三歩前に出て、僕の方を振り返った。
「実はね、私、もう死んでるんだよ」
風になびく髪。赤に近い橙色で彩られた空。魔女のように魅惑的な、少し細められた目。不覚にも僕は、美しいと思ってしまった。なんだか、彼女の体を違う魂がのっとっているような、不思議な感じだ。
ざあっと風が流れて、遠くで桜の花びらが無残にも散っていくのが見える。あの桜は、あとどれくらいもつのだろうか。そんな僕の考えも虚しく、花は散り続ける。それは、彼女を呼んでいるようにも見えた。
なんとなく、このままだと負けた気がする。そんな思いが僕の中に芽生えると、僕の脳は一つの提案をしてきた。そうだ、今まで誰にも話したことがない自分の考えを述べてみようか、と。
「そうかい、じゃあ僕も君が驚くようなことを教えてあげよう」
いや、口が勝手に動いて、こぼれてしまったのだ。つい、ほろっと。
「僕はまだこの世界に生まれてないんだ」
誰にも、言う気なんて無かったのに。
「あ、着いた」
僕が彼女に対応しているうちに意外と時間が経っていたらしく、ちょうど自分の家の前に到着した。
「え、近っ」
さっきの会話の中で家が近いと話したはずなのに、彼女は既にそれを忘れて本当に驚いているようだ。
「じゃあ」
僕が「さよなら」も「またね」も言わずに家に入ろうとしたら、彼女は「待って」と慌てて声をかけた。
「明日も、私、行くから!」
「だから、待っててね」と優しく微笑む姿は、可愛らしい女子高生そのものだった。彼女のしつこさを知らなければの話だが。
「気が向いたらね」
僕がそう言ったのを聞いていたのか否か、いや聞いていないだろうが、彼女は「うふふ」と少し気味の悪い笑い声を漏らしながら、「じゃあね、また明日」と手を振った。そして、革靴の軽快な音はみるみるうちに遠のいていった。