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「えー、ただいま十二月二十五日、十一時二十四分。今、急に思い立ってこの手紙を書いています。本当は何も残さないつもりだったんだけど、【 】くんはそれじゃ納得しないだろうと思って。だから、心優しい私は手紙を残すことにしました! 本当に何にも考えずに書いていくから、ごっちゃごちゃでも許してね。
【 】くんはもう既に察してるかもしれないけど、私がこれから死にに行く……いや、【 】くんから見たら『死んでいった』になるのかな? まあどっちでもいいんだけどさ、これは私のエゴだから、【 】くんは気に病む必要はないんだからね。そしてこれはフリでもツンデレでもありません! まあ、【 】くんのことだから、気にしてないだろうとは思うんだけど。
さて、唐突で悪いんだけど、ここで思い出話をしましょう。【 】くんにとって、『生きてる』ことは泣くことだって言ってたよね。あのときは適当にはぐらかしちゃったけど、私にも『生きてる』ことの定義があることを告白します。なんか照れちゃうね(笑)
私にとってね、『生きてる』っていうのは、私が私であることなんだ。哲学みたいで悪いんだけどさ、自分が自分でいるっていう保証が欲しかったんだよね。
こんなこというのもおかしいかもしれないけど、私友達はそこそこ多かったと思うんだよね。小さい頃からずーっと、クラスでハブられたことなかったもん。今までだいたい上位グループに入れてたし、私ってばちょー人気者じゃん?(笑)でもさ、好きな人と遊んでいいよーってなったら、私ってば全然選んでもらえないの。呼ばれるのはいつも違う子の名前。これおかしくない?(笑)
うーんと、つまりね、私が私であるためには、名前が必要だったの。私が選ばれた証拠として、名前を呼んでほしかったの。ちなみにこれ私の持論ね! パクったりしたら許しません。あ、君にはそんな必要ないか(笑)
それで、なんでこの話をしたかっていうと、私は【 】くんのことを利用してたから、謝らなきゃと思って。【 】くんは大勢の中に混じっていくキャラじゃなかったから、そこに漬けこんでお友達になってもらおうって考えたの。ほら、相手が少なければ選んでもらえる確率上がるかもじゃん?
それなのに? 【 】くんってば全然名前で呼んでくれなかったじゃん? いっつも他人行儀の呼び方しかしてくれないし。てか名前どころか苗字すら呼ばれた記憶ないんだけど⁉ 私本当に思ったよ。『これ人選ミスったな』って(笑)
でもさー、【 う 】くんと一緒にいると、なんか安心したんだ。名前は呼んでくれないし、塩対応だし、話してるときも全然笑ってくれないし、冷酷非道ってやつ?(笑)けど、一応ちゃんと私のこと見てくれるし、なんだかんだ文句言いながらわがままにも付き合ってくれるし、とあとから思いまして。だから、もう名前のことはいいかなーって思っちゃったんだよね、多分。あ、持論崩壊した(笑)
まとめるとね、【ゆう 】くんをぼっちだと思ってお友達になってってお願いしましたってことです。ほんと、すみませんでした。あ、でも私が死ぬっていうのはそれよりあとにわかったことだから! 不本意です!
まあ、わざとじゃないとはいえ、私の人生に巻き込んじゃったことはごめん。君を利用してたみたいな形のまま終わっちゃうことも謝る。ごめんなさい。でも後悔はしてないです! 反省は、まあ、ちょっぴりだけしてるけど。
まさか高校生の頃に友達が死ぬとは思わないよね。それに関しては何回でも謝る。ほんとにごめん。でも、私はもともと死んでたんだし、ちょっと生まれ直してくるだけだよ。だから、心配しないでね。
ちなみに、この手紙はあの喫茶店の佐伯さんに託します。託すって言っても、探して意地でも渡すっていう感じじゃなくて、偶然会う機会があったらって感じね。今日私が何をするつもりなのかも伝えてないから、あとできっとびっくりさせちゃうだろうけど。なんだな悪いなぁ。まあそういう訳だから、本当にこの手紙が【佑 】くんに届くかどうかは私にもわからない。でもね、私、賭けには強いの! だから言い切るよ。この手紙は【佑 い】くんに届く。それでね、私が【佑せい】くんを泣かせるの! 【佑星】くんはね、泣いて、生まれ直すんだよ。私と同じようにね。
【佑星】くんには不十分だったかもしれないけど、私の中では【佑星】くんはこれでもかってくらいちゃんと生きてたよ。私、【佑星】くんに生きてほしくて、いっぱい名前呼んじゃった。(笑)もし【佑星】くんが私のこと、死んで忘れられるほど薄っぺらくない、『特別』だって思ってくれてるなら……こんなこと言われるのはうざいかもしれないけど、いっぱい私の名前を呼んで、私が生きてたって証明してほしいな。私のことを、忘れないで。……なんてね!
ああ、そうそう、最後に一つ。これが現実になるかどうかは本当にわからないんだけどさ、【佑星】くんのこと信じてるから言っちゃうね。あの写真が大賞を取ったことと、君が生まれ直したこと。本当におめでとう、【佑星】くん。」