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「っ……君、何してんのさ」
息も絶え絶えに、僕は彼女に声をかけた。なにせ、本来なら一時間近くかかる距離を、僕は半分の時間でここまで辿り着いたのだ。当然だろう。そんな僕の問いに対し、彼女はへらりと笑ってこう答えた。
「えぇと、うーん、死に直し?」
海風の音だけが静かに響く中、その声はやけにはっきりと僕の耳に伝わった。そういえば、不思議なことに、夕方の公園だというのに、誰もいない。ああ、そうか、今日はクリスマスだから。こんな海と原っぱしかないようなところに、わざわざ人が来るはずもないか。
「ごめんね。もしかして心配してくれた?」
「君が突然居なくなった、なんて連絡がわざわざ家に来たんだよ。第一、本当に帰ってこなかったら、前日に会った僕が怪しまれるかもしれないじゃないか」
「あぁ、それもそっか」
彼女はふふっと軽やかに笑う。彼女は現状をきちんと理解しているのだろうか。
「悪いな、ボウズ。この子はどうしても俺が殺さなきゃならないんだ」
見知らぬ男に包丁を突きつけられた状態で、なぜ笑っていられるのだ。もはやこれは肝が座っているどころの問題じゃない。
「これはドッキリか何かなの?」
「私がそんなことするように見える?」
「……見えないとは言い切れない」
「……残念ながらドッキリじゃないんだよねぇ」
そうして、今度は困ったように笑った。後ろの男は、それとは対象的に少し震えている。
「じゃあ、これは一体どういう状況なわけ」
「それはおじさんに説明してもらおうよ。私も答え合わせしたいし」
彼女は「ね?」とあざとく男に笑いかけた。男はそれを見て、ハッと嘲笑した。それは、一体何に対する嘲笑なのか、僕にはわかるはずもなかった。
「今更止めるつもりはないが……まあ、いいだろう。見たところ、この嬢ちゃんはボウズに何にも話していないんだろ? 薄情なもんだねぇ」
「そんな哀れな女の子を殺す計画を止める気配もないおじさんこそ薄情じゃない?」
なぜ、彼女はそこで男につっこむのだ。男が逆上したら、君は殺されるかもしれないんだぞ、と言いたい気持ちを必死に抑える。男は彼女の様子を見てか、はたまた僕の反応を見てか、はぁと軽いため息をついた。
「まあ、一応謝っておこうか。巻き込んじまって悪かったな、ボウズ」
そんな本心かどうかもわからないような謝罪に続けて、男は今日に至るまでの過程を話し始めた。