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13冊目 2ページ

 喜びを沈めつつ、僕は階段を降りる。浮かれて階段から転げ落ちたなんてことになったら、それこそ彼女に笑われてしまう。いや、それで済むかどうかもわからないところだ。

 ひとまず、母にでもこのメールが現実であることを確認してもらおう。そう考え、僕はリビングへつながる扉を開けた。「母さん」と呼びかけて、語尾がすぼむ。そこには、受話器を抱えながら眉尻を下げている母がいた。物音に気付いて目をやった母と視線がかち合う。

「あ、【  】、起きたのね。いいところに来たわ。ちょっと待っててくださいね、うちの子にも聞いてみますから」

 そう言って、受話器の話し口を片手でおさえつつ、母は困ったような顔をこちらに向けた。

「どうしたの。なんかあった?」

「実はね、先生から電話があって。【  】、一ノ瀬さんと仲いいの? その子がね、家にいないんですって」

「普通に出かけたんじゃなくて?」

「普段はだいたい何時に帰ってくるかとか、誰とどこに行くかとか、連絡があるって一ノ瀬さんのお母さんは言ってたらしいわ。でも、今日はお昼過ぎからいつの間にかいなくなってて、メールも電話も返事がないって」

 彼女は確かに礼儀正しいから、報連相はできる人だと言われても異論はない。まあ、僕を引きずっていくときに関しては、ほとんど事前連絡なんてあってないようなものだけれど。というか、まだ四時過ぎなのに既に心配しているなんて、今どきの高校生なら帰宅時間は六時を過ぎるくらいが普通のような気もするが。

「何か知ってる?」

「いや、昨日会ったときは何もなかったはずだけど」

 そこまで言って、続くはずの言葉は宙を舞った。その先はあまりにも根拠がなさすぎて、とてもじゃないが言えなかった。なんだかごわごわしたものしか感じておらず、表現し難かったからだ。

 なんとなく、本当にこれは勘なのだけれど、おかしな感じがする。嫌な予感と言うべきか。昨日出かけたときに何もなかったのは事実だけれど、たった一本の電話で心変わりするのはどうなんだという声が聞こえそうな気もするが、何か大変なことが起こるような気がするのだ。例えば、変な夢を見て寝覚めが悪かった時のような、意味もなく胸をぎりぎりと掴まれているような、そんな感覚があった。

「……ちょっと出かけてくる。多分七時までには帰ると思うから」

「わかった、気をつけてね。えぇ、特に何も聞いていないらしくて……すみません」

 母の少し上ずった声を背に、ちょっとしつこいくらいに靴を鳴らし、ざわざわする心を抑えて、僕は「いってきます」と呟いた。

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