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「リア充爆発すればいいのに」
唐突な発言に、僕は思わずむせてしまった。切ない感じの空気になっていたはずなのに、普通この状況でそれを実行するか。考えている間も咳は止まらない。これは、多分、ココアが器官に入ったな。咳き込んでいると、彼女が隣でこらえきれずに笑っていた。
「急にどうしたの?」
「そのタイミングで言うとは思ってなくて、けほっ、準備できてなかった」
「こういうことでびっくりするとか、【 】くんでもそんなことあるんだねぇ」
「これでも一応人間やってるんで、けほっ」
漏れ出す彼女の声は、やがてけたけたという遠慮のない笑い声に変わっていった。それはしんとした空気を伝って夜空に吸い込まれていくので、誰にも届くことがないだろうから、恥ずかしさがなんとか紛らわされるのが僕にとって唯一の救いだった。
ようやく咳が止まり、なんとも言えないもどかしい感情にしかめっ面をしていれば、彼女はふっと笑って、再び話し始めた。
「今日はありがとね。こんなにわがままに付き合ってくれたのは【 】くんが初めてだよ」
「そうですか。ご希望に添えたようでなにより」
「本当、こんなに楽しかったのはいつぶりだろうってくらい。人生の楽しみをここで全部使い切ったって言っても過言じゃないと思います」
「僕ら四捨五入してもまだ二十年しか生きてないんだよ? そんなこと言ったら爺さん婆さんに怒られる」
「ふふっ、そーだった」
彼女はどこか遠くを見つめながら、穏やかに笑っている。目の奥にはクリスマスのイルミネーションが写り込んでいて、静かな世界の中で彼女の瞳はまばゆく輝いていた。
「じゃあ、そろそろ解散ってことで。そのココアはちゃんと最後まで味わうこと!」
僕がちょっと考え事をしている間に、彼女は自分のココアを飲みきってしまったらしい。それにしても、誘った相手を残して帰るだなんて、どこまでもマイペースなことだ。彼女に彼氏がいたら、きっとすぐに別れを告げられることだろう。
「じゃあね、【 】くん」
そんなことを考えながらも、へにゃりと笑った彼女の背中を見送るのは、なんだか寂しく感じられた。