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「それで、行き先は決まってるわけ?」
「まずお買い物! それからクリスマスツリーの写真撮って、温かい飲み物飲んで、リア充爆発すればいいのにって言ったら帰る」
後半に聞き捨てならないような内容があったが、まあ、彼女らしい。主に計画が雑なところが。そんな思考を感じとったのだろうか、反抗心を見せるかのように彼女は僕の腕をひっつかんで喧騒の中に飛び込んだ。
張り切って歩き出したものの、所詮、ウィンドウショッピングというやつだ。彼女は店内を散策し、「あれ良いなあ」「これかわいい」と繰り返し呟くばかり。加えて、僕は彼女の後ろについてまわるただのひっつき虫と化していた。僕も彼女も、散財することなく店を冷やかしてまわっている、さぞ迷惑な客だったことだろう。
彼女も同じようなことを考えていたのか、あるアクセサリー売り場で足を止め、こんなことを言い出した。
「私ね、誰かとプレゼント交換するの夢だったんだー」
目線はずらりと並んでキラキラと輝きを放っているアクセサリーたちにあるものの、彼女の纏うオーラはまさに「プレゼントください」というアピールそのもので、僕は冷たい視線を送る。ついでに、「君、友達いないの?」なんて聞いてみる。
「いないわけないじゃん! でも、こう、私が入ってない別のグループで集まられると、ねぇ」
彼女の困ったような、寂しいような顔が視界に入る。なんだか、聞いておいて申し訳なくなった。僕がそんな反省をしているにも関わらず、彼女はまた元のオーラに戻り、あれとこれととアクセサリーを選別している。
「……どれ欲しいの?」
「全部」
「そんなの聞くわけないでしょ。彼氏でもないんだから」
欲張りで楽しげな彼女の発言に、呆れた口調で僕はそう返す。一方で、気が緩んでいたら「ただの友人が」なんて口走っていたかもしれない、なんておかしなことも考えた。
彼女は「えー、しょうがないなぁ」とふてくされているが、僕がケチ臭いみたいに言われるのはおかしいだろう。この件に関しては、僕は悪くない、断じてだ。
と、心の中で反抗しているのも知らず、彼女は「これにする!」と元気よく声を上げた。その手には金色のチェーンのブレスレットが握られている。
僕は「はいはい」といかにも面倒そうな返事をしつつも商品を受け取り、レジへ向かった。
「商品をお預かりします。プレゼント用ですか?」
「あー、いや、そのままでいいです」
「七〇〇円になります」
女子はこういったものにもお金をかけなきゃならないなんて、さぞ大変なことだろう。あんな彼女でも女子らしいことはするのだな、と考えるとちょっと不思議な感じだ。商品を受け取ると、店員の明るい声に見送られ、僕は売り場から離れた。だが、僕にブレスレットを買わせた当の本人の姿が見当たらない。
「【 】くーん! プレゼントちょーだい」
「自分から頼んでおいてわざとらしいね、まったく」
後ろから声をかけてきた彼女にそんな返事を送りつつ、目当てのものを彼女に渡す。
「やったね、ゲットだぜ! でもなんでラッピングされてないの?」
「君はすぐ破いちゃうだろうから必要ないかなって」
「うわー、【 】くんひどいね。百歩、いや千歩譲ってそれが事実だったとしてもだよ? こういうのは雰囲気が大事なのー」
「……君はどこ行ってたのさ」
いつも僕ばかり振り回されているのに、ふっと彼女が勝手に遠く離れてしまう気がして、なんだかもやっとしたから、無意識にそう言ってしまった。すると彼女は二回ほど瞬きして、へらりと笑った。
「ごめんてー。はい、どーぞ」
彼女が握りしめた手を勢いよく前に出す。どういうことかわけがわからず、首を傾げてみせると「手を出しなさい」となぜか命令口調で言われた。
「ゴキブリのおもちゃとかやめてよね」
「クリスマスだよ? そんなことするわけないじゃん」
「やりかねないと思ったから言ってるんだよ」
おずおずと手を開いて差し出すと、しゃら、と音がした。僕の手の中には銀色のブレスレットが落ちていた。
「えへへ、おそろっち」
彼女はさっきよりもさらに緩んだ顔でへにゃりと笑った。
「……そりゃ良かったですね」