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11冊目 1ページ

「夏休みが恋しい」

 まだ夏らしさが残る青空で彩られた窓際。彼女は僕の前の席へ座り込んだかと思えば、こちらの机にべたっと頬をつけたなんともだらしのない体勢で、そんな言葉を放った。

「君、まだそんなこと言ってるの。もう九月だけど。それも終わりの方」

 僕が呆れたようにそう告げると、彼女はあからさまにため息をついて、言葉を続けた。

「テストが憎い」

「終わったことはどうしようもないからね。諦めなよ」

 というのも、少し前に第二回定期考査が終わり、先日その結果が返却されたのだ。僕は、まあ、ぼちぼちだ。大体七割は超えているし、悪くないはずだ、と思う。彼女は相変わらず数学が苦手なようで、解答用紙を返される際に先生が真っ黒なオーラをまといながらいい笑顔をしていたのを覚えている。

「【  】くんが憎い」

「八つ当たりしないでくださーい」

 僕がそっぽを向くと、彼女は軽く舌打ちをした。なんて理不尽な。

「【  】くんは頭良いもんねー」

「別に良くはないよ。日頃の行いでしょ」

「うわっ、正論かましてきた」

 彼女はぶすっと頬を膨らませて、またすねてしまった。机の垂直抗力と彼女の重力に挟まれてぶよぶよと動く頬は、なんだかバランスボールみたいだ。

「それで、御用は何ですか」

 帰り支度をしながらそう問えば、「それ、女の子に言わせる気?」と睨まれてしまった。別に、怖くもなんともないけど。

「男の子は鈍感だから言ってくれなきゃわかんないんです」

「【  】くんってほんと意地悪だよねー」

 ぐだっとした体勢のまま盛大なため息をつかれた。以前彼女が言ったように「ため息つくと幸せが逃げるよ?」と伝えてみれば、いつか見えていたふさふさの尻尾が再び現れ、寂しそうに下がった。そして、椅子の背をぺしんぺしんと力なく叩いている。本当に、なんてわかりやすいのだろう。ここで勝手に帰ると、僕は確実に恨まれる。女の恨みは怖い、なんて言葉を馬鹿にしてはいけない。そう思って、僕は仕方がなく彼女に話しかけた。

「帰るんでしょ?」

「……うん!」

 元気な返事が返ってくると同時に、尻尾がパタパタと力強く左右に揺れているのが見えたのは、きっと言うまでもないだろう。

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