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「そう、なんですね」
さっきまであまり話していなかった右端の子が、そう呟いたように聞こえた。なんとなく、雰囲気が暗くなったような、それでいてあたたかくなったような気がしたのだけれど、僕の気のせいだったのかもしれない。その後、彼女はゆっくりとこちらに目を合わせて、「その人って、今どうしているんですか」と訊ねてきた。
すると、便乗するような声色で他の女子生徒たちも「知りたい」「気になる」と次々に声を上げ始めた。ふむ、困ったものだ。いや、でも事前確認が取れればぎりぎりセーフなのでは。
「結構重たい話になると思うんだ。だから、せっかくの雰囲気壊しちゃいそうだし、僕的にはあまりおすすめしないんだけど……それでも聞きたい?」
僕が問いかけると、四人は揃ってコクコクと首を振った。ああ、僕はこれからこの純粋さを汚してしまうかもしれないのか。でも、了承が得られた以上、言及しないのはずるいから、言わざるを得ない。ここまで来たら、あとは腹をくくるしかないのだ。
「僕の母校がこの学校だったっていうのは、もう知ってるかもしれないんだけど、彼女は二年生の時のクラスメイトだったんだ。一年のときは一度も話したことがなかったのに、ある日ね、僕が道路で猫と戯れてたら急につっかかってきたんだよ」
最後に、「本当、笑っちゃうよね」なんて付け足してみる。反応を伺うに、まだ興味を持ってくれているらしく、僕はほっとする。これからとことん重たくてつまらない僕の話をするのに、こんなところでほっぽり出されたらたまったものじゃないから。
「それで、彼女と過ごしているうちに、いろいろあったんだよ。話すと長くなるからここについては秘密ってことにしておくけど、それなりに仲は良かったと思うし、カメラに興味を持てたのは彼女のおかげ、っていうのは変えられない事実だね」
「じゃあ今でもその方とよくお会いするんですか?」
僕は密かに息を呑んだ。できるだけ堂々と、わざとらしくてもちょっとかっこよく。だって彼女は、多分そういうのが好きな人だったから。
「今は、事情があって、あまり話せていないんだ。でも、そうだなぁ、彼女の言葉を借りるとすれば、こう表現するべきかな」
――――一ノ瀬夕陽は死んでいる、ってね。