表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/51

7冊目 2ページ

 雨でしみったれた空気が蔓延する中、今日もなんてことのない授業を六時間受け、そうしてようやく僕たち学生は解放される。帰りのホームルームが終わり、僕は席を立つ。窓の外をちらりと見たが、まだ雨が止む気配はなさそうだ。心なしか、登校時より強まっている気がする。

 また水浸しになることにため息をつきながらも、僕は教室を出た。足取りは重い。雨音が響く廊下で、二人組の女子生徒とすれ違った。普段は特に気にすることはないのだが、今日は他人の言葉に敏感になっているようで、彼女たちの会話が自然と耳に流れ込んできた。

「ねえ、裏口のほうでなんか騒いでたよね」

「うん。サッカー部の人が部室に行ったときに何か見つけたんだって。うるさくて詳しくは聞こえなかったけど」

「えー、何それ。そこが一番重要じゃん。しっかりしてよー」

「ごめんって。じゃあこの後見に行く?」

「人だかり出来てたら面倒だからパス」

「なーんだ、つまんないの」

 あはははは、と女子高生らしい甲高い笑い声を残し、その二人組はどこかへ行ってしまった。僕は悪意の無い言葉に安堵し、階段を降りた。

 その後にすれ違った他の生徒も、皆同じような話をしていた。しかし、結局肝心な部分についてはよく知らないようだった。事情に首を突っ込む気はないけれど、ここまできて真相を知れないのもなんだかもどかしい。そんなことを考えながら昇降口で靴を履き替えていると、雨水を散らす音が近づいてきた。

「【  】くん」

 顔を上げれば、そこには彼女がいた。と、すぐに僕は異変に気づく。

「なんで泣いてるの」

 いつもなら「女子にそんなこと言ってるともてないよ」とでも言いそうなのに、今日は「大変なの」と小さく一言こぼしただけだった。何かが、おかしい。

「どうしたのさ」

「来て」

 彼女は弱々しく僕の腕を引く。勿論、そんな力では僕を動かすことなんてできない。これでも僕は男なのだ。ましてや、外は豪雨だ。頭では行ったほうが良いもわかっていても、体は多少抵抗があるようで、すぐには動いてくれない。

「雨降ってるんだけど」

「いいから」

「僕をわざわざ濡れさせたいの?」

「早く」

「せめて要件だけでも話してよ」

 僕がため息混じりにそう伝えると、その言葉に重ねるように、彼女はか細く震えた声で言った。

「みゃーこが」

 それきり、彼女は何も話さなかった。あとは嗚咽だけがこぼれて、雨の中に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ