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7冊目 1ページ

 今朝、西の方に美しい虹が見えた。普通なら綺麗なものを見て喜ぶのかもしれないが、僕は違った。これから雨が降ることを理解してしまったからだ。

 そして予想通り、現在雨はザアザアと豪快に降っている。昨日の晴天が嘘のようだ。こんな豪雨の中徒歩で通学するのは気が引けた。しかし、今日に限って定期が見つからない。「ついてないな」とぼやきつつ、不幸中の幸いというべきか時間にはまだ余裕があったから、仕方がなく歩いて学校へ向かうことにした。傘をさしていても、雨粒は容赦なく僕の体を打ち付ける。

 雨は嫌いだ。濡れるのは気持ちが悪くて嫌だし、気圧の関係で頭も痛くなりやすい。そのうえ、こういうときは気が滅入る人が多いから、廊下を歩けば誰かが何処かで小言を言っているのがよく聞こえる。僕が雨に憂鬱を押し付けられて、それが限度を過ぎると、そういったものが自分に当てたものではないのにそう聞こえてしまうこともある。

「なんだか、嫌だなあ。誰に言ったところで解決する問題じゃないけど」

 黙っているとますます思考の渦に溺れそうになるので、そんなことを呟いてみる。だが、空はそんな僕の気持ちなんて知るはずもなく、その音をあっけなくかき消した。

 一歩歩けば、びちゃりと水が飛び跳ねる。また一歩進めば、革靴の中で靴下がぐちょりと嫌な感触を伝える。鞄はとっくに雨水が染みていて、ズボンの裾も大分色が変わっている。

 家は近いはずなのに、天気が違うだけで、学校までの距離が数倍に感じられる。それなのに、早く行こうとすると今度は雨による被害が増えるものだから、じれったい。普通の雨ならまだしも、夏の雨だからさらに質が悪い。じっとりとした暑さに、汗が首筋を伝う。

 まだか、まだかと急かす態度は、彼女を連想させた。僕は少し彼女に似てきたのかもしれない。いや、もともと共通する何かがあったのかもしれない。彼女だったら、どんなふうにこの天気を捉えるだろうか。それを考え始めると、不思議と嫌な気分が紛れてきて、少し落ち着いた。きっと彼女は、こんなことを言うのだろう。「雨ってさ、なんだか演奏家みたいじゃない? ほら、こうやって雨が地面を叩いて、街の人の足音を鳴らして、絶え間なく不規則なリズムを刻むの。私ね、これって世界で八番目くらいに素敵な音楽だと思うんだ」と。

 想像上の彼女が発した言葉に、思わず笑ってしまった。「八番目くらいに素敵」って、すごく微妙だ。でもそれが彼女らしくていいか、と僕はまた学校へ向けて歩みを進めた。

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