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4冊目 1ページ

「【  】くん、見て。みゃーこが、ついに……」

 瞳をキラキラと輝かせながら、彼女は震えた声でそう言う。彼女とここで出会ってから約二ヶ月。彼女はようやく、みゃーこを撫でることに成功していた。

「そうかい、良かったね」

 僕が軽くあしらうのを気にする様子もなく、彼女は「みゃーこ」と「可愛い」の二種類の言葉を連呼している。完全に、自分の世界に没頭しているようだ。

 その様子を観察していると、しばらくして彼女の手の動きが落ち着いた。みゃーこのもふもふを堪能し終えたのか、と思うと今度はスマホをポケットから取り出した。そして、それを僕に差し出す。

「ねえ! 写真撮って!」

「なんで僕が」

「そこに君がいるから」

「『そこに山があるから』みたいなノリで言われても困るんだけど」

「いいでしょ? 私、自撮り出来ないから。めっちゃぶれるの。だからさー、頼むよぉ」

「あーはいはい、わかりましたよ」

 しぶしぶそれを受け取ると、僕はしゃがんでスマホを構えた。そして、カシャ、カシャと二回シャッター音を響かせた。

「はい、どーぞ」

「ありがと。みゃーこかわいい……じゃなくて、これみゃーこだけの写真じゃん!」

「違った?」

「わざとでしょ」

「わざとだね」

「もー! 私が、みゃーこをなでてる写真ね! わかった⁉」

「はいはい、さすがに二回も同じことしないから」

 彼女から再びスマホを受け取り、画面をのぞく。しゃがんで二回、今度は立ち上がって三回、シャッター音が鳴った。

「これでいい?」

 そう言って彼女にスマホを返した。画面を軽やかな手つきで何度かなぞった後、「ばっちり! ありがとねー」と満足げに笑った。こういう時にしっかりとお礼を言える人は、悪いやつじゃないと思う。

「それにしても【  】くんって写真撮るの上手だね」

 感心したようにそう言いながら、彼女は立ち上がった。

「そう? 普通でしょ」

 僕がさして気に留めない素振りを見せると、「そうかなー。才能あると思うんだけど」と腕を組んで悩まし気な顔になった。

「あ、じゃあさ、試してみようよ」

「またいきなり」

 彼女の唐突っぷりはどうにかならないものか。そうは思いつつも、とりあえず彼女の話を聞いてみることにした。

「最近、ネットから応募できる公募って多いじゃん? だから、それに参加してみようよ。あ、ほら、これとかどう?」

 そう言って彼女はスマホの画面をずいと僕に近づけた。「そんなに近づけなくてもちゃんと見えてるから」とこぼして、僕はスマホを手に取り詳細を確認した。

 どうやら、動物と人の絆がテーマの写真を募集しているらしい。ネットの応募フォームから応募できるらしく、これが時代の進歩なのだろうな、なんて思う。

「へえ、こんなのあるんだね」

「さっき【  】くんに撮ってもらった写真、ぴったりだと思わない?」

「まあ、条件的にはあってるんじゃない?」

 スマホと一緒にそんな言葉を返した。彼女の質問に「はい」なんて答えたら、今後も彼女に振り回されていくのが目に見える。だから僕は、せめてもの抵抗としてそう答えた。

「やってみる気、ない?」

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