表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/51

2冊目 2ページ

「ごめん、こんな話ふっちゃって」

 また申し訳なさそうに彼女が笑うから、僕はどうしたら良いのかわからず、とりあえず「別に」と返しておいた。

 ふと、ザラリとコンクリートを触る感覚がして手元を見ると、いつの間にかみゃーこが居なくなっていた。まるで、人間の話を理解して、空気を読んで行動しているみたいだ。みゃーこは本当に賢いやつだなと改めて思う。

「僕は帰るよ。みゃーこも行っちゃったし」

 彼女は控えめに頷いた。意外にも、彼女は感傷的になりやすいらしい。もっと、こう、ぱっとしていて、からっとした性格だと思っていた。

 僕にとって一番困るのは、日常にずれが生じることだ。彼女が僕の歯車になりつつある今、いつもみたいに騒がしくないのは僕の調子を狂わせるだけで、何のメリットもない。

「君は、帰らないの」

 そんな言葉を紡いでみた。しかし、彼女は生返事をするばかりで、反応は薄い。効果はいまいちだ。

 こうなったら少し強引でも仕方あるまい。もとはといえば、彼女が同じような手口で、僕の中に土足で踏み込んできたのが元凶なのだから。

 行き場のない彼女の手をぐいと引っ張り上げて立たせる。その手は思っていたより細くて、白くて、壊れてしまいそうで、嫌でも彼女が女なのだということを理解させられた。状況を飲み込めずに目をぱちくりさせている相手に、僕はこう言った。

「早くしないと、おいて行くよ」

 なれない発言が少し、いや、とてももどかしい。これで「はあ?」という言葉と共に冷たい目線を送られたりしたら、僕は二度と立ち直れないだろう。あ、でも、恥ずかしそうに照れられても困る。そんな気があると勘違いされたらたまったもんじゃない。

 僕の勇気の代償として、三倍の後悔が襲ってくるとは、いったい誰が予想しただろうか。やってしまった、かもしれない、と思った。しかし、そんなもやもやを払うように、いつか聞いたような明るい声が茜色の空に響いた。

「帰る! 一緒に帰るよ!」

 また、犬のしっぽの幻覚が見える。それはもう、「気がする」では済まないほどはっきりと確認できるのだ。決して、僕の頭がおかしくなったわけではない。

「今、失礼なこと考えてたでしょ」

「別に」

「別に、って、そんなわけない! 【  】くんに限ってそんなことあるはずないもん!」

「酷い言い草だな」

 僕は新たな日常を取り戻したことに満足し、彼女の一歩先を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ